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第7話

 1週間後、ガキがまだ居候してるってのはまぁ、そういうことだ。  そんな好き者には見えない、しゃぶって喜んでるようにも見えねえのに、ガキとは思えないテク。マジでどういう生き方してきたんだか。  あんなん、遊んでる女ひっかけたって、なかなか味わえない。  なのに、あんな無邪気に笑うんだ。どこかおかしいんじゃないか、あいつ。  あんまり深みにハマらないうちに手離したい気持ちと、他人に興味を持ってしまった自分が面白くて、あいつを手離したくない気持ちがある。  あいつの何がそんなに俺を惹き付けたんだろうか。逆に言うと、ガキはなんで俺になついて居候してる?  あいつの事を考えながら、彫ってみたい絵柄の下絵を描いてた。進まない。あいつならどんな絵が似合うだろうか…褐色な肌に屈託なく笑う顔、デカイ目が笑うと線で描けるくらいくしゃくしゃになるんだ。料理が下手くそで、でも頑張ってて、俺が残さず食べると嬉しそうに笑うんだ。褐色の肌に…赤系の花もキレイに映えるかもしれないな…。 「よぉ、今日も来たのか。そろそろ挨拶してったらどうだ」 意識を現実に戻すと、ここの店長の声がした。店長兼俺の師匠な。 「健一さん…」 どうもみたいに片手を挙げて近づいてきたのは、ガキ…勇樹だった。 「なんっ、お前なんでここ知って、えっ?」 「はっはっは、健一がそんな動揺してんの珍しいな。こりゃ、面白いもんが見られた」 豪快に笑う師匠と、困ったような照れたような顔の勇樹を見比べる。 「こいつよくここの店の前からさ、お前の事見てたんだぜ。お前が描いてるとこ表からよく見えるだろ」  そう。この店は気軽にタトゥーに触れてもらおうとの師匠の考えで、俺が描く練習をしている場所はガラス張りで外から見えるようになっている。  尤も俺は、外からもし見てる奴がいたとして、目が合ったら気まずいし、描くとその世界に没頭するから、滅多に顔をあげる事はない。 「そうなのか?勇樹…」 「あはっ、店長さんに見つかって、それから顔見知りなんだ。健一さん、オレが見てても気がつく事なくてさ、凄い集中力だな~、そんなに夢中になれるって凄いな~って思ったらこっちも目離せなくなって……どうにか偶然装って話したかったんだ…」 「なんだよ…店内入って話しかけて良かったのに…」 「集中してるとこ邪魔したくなかったから…」 「坊主も物好きだよなぁ。良さそうな学校の制服着てんのに、彫り師の見習い気にいっちまうなんてよ」 師匠のガハハ笑いが続く。  俺は、どんな顔して勇樹を見ていいか分からなかったし、勇樹も勇樹で、所在無さげに指を弄りながらうつむいてた。 「じゃぁ、そういうことで。健一さん、先帰ってるね」 「あっ、あぁ…」  勇樹は何が好きなんだろう。夢中になってるものはあるんだろうか。訊いてみたくなった。

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