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告白は捕獲ののちに
いつもの駅、電車を降りて、ざわめく駅の構内を改札に向かって歩いていると、不意にジャケットの裾が引っ張られた。
ぎゅっと握りしめられている感触も。
なんだ、と思って、ぎくりとする。
電車を降りた改札前。
こんなところで捕まえられようなど、まさか痴漢と間違えられたのでは。
痴漢など働くはずがない清廉潔白な男・桜庭 茂(さくらば しげる)は、おそるおそる振り返った。
だがそこにいたのは、そんな痴漢沙汰にはまったくそぐわない外見の人物。
茶色のふわふわした髪。
くりっとした黒い瞳。
小柄な体をブレザーの制服で包んでいる。
そんな姿で茂のジャケットを捕まえてきた相手は、男子高校生……いや、中学生?
「な、なにかな?」
やっと言った。
男の子でも、痴漢に間違われたから捕まえてきたという可能性はあるだろう。それならまだ気は抜けない。
おそるおそる聞いたのだけど、彼から出てきた言葉はとんでもなかった。
「急にすみませんが、ずっと貴方を見てました! 俺と付き合ってください!」
ずっと?
見ていた?
まずそこに衝撃を受けたが、そのあとのことは衝撃では済まなかった。
付き合って……ください!?
どこかに行くのに、なんて無粋な意味であるものか。
高校生くらいにもなった子が言うのだ。
意味なんて『交際』に決まっている。
茂は、ずきん、と頭が痛むような感覚を覚えた。
なにかこれは。
痴漢に間違われるより。
……ずっと厄介なことになりそうな気がする。
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