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第108話 光生side
「先生〜、今の俺すっごい元気ないからお昼まで寝させて。」
「あらあら、恋の悩み?」
初めて会った保健室の先生は近所のおばちゃんに雰囲気が似ていて気持ちが少し落ち着く。
「そう。好きな人取られちゃった。」
「うふふっ、それは大変ね。」
深く聞いてくるわけでもなくただ優しく微笑んでくれる先生の空気感がすごく心地良い。
「ほら窓開けたから少し外の空気吸ってみて!心がスーッとして気持ちいいから!」
ふわりとカーテンを揺らす風を吸えば本当に気持ちよくてイライラした感情が少し薄れていく。隣で一緒に深呼吸をしてくれる先生と目が合うと背中を叩かれた。
「ほら元気がでるまで寝てなさい!」
「あははっ!先生、力強すぎ!」
バシバシと俺の事を叩く先生につい笑ってしまう。おかげでさっきまでのモヤモヤした気持ちは消えて心が軽くなった俺はベットに寝転がるとすぐに眠たくなってくる。
体に当たる風が気持ちよくていつのまにか寝ていたらしい俺は目が覚め時計を見るともうお昼の時間になっていた。
「、、、腹へった。」
ご飯を食べてまた午後からサボろうかななんてぼんやりと考えていたらふいに涼の声が遠くから聞こえてきた。
「光生!大丈夫?」
どんどんと近づいてくるその声と同時にカーテンを開けて急に現れた涼に俺はびっくりしていると先生も後ろからやってきてニコっと笑う。
「ちょうどよかった!先生ちょっと職員室に用事あるから2人でお留守番してて!」
いつのまにか仲良くなったらしい先生に涼は手を振ると寝ている俺の横に椅子を持ってきて座った。
「光生体調どう?まだ体きつい?」
俺の手をギュッと握ってくれる涼の手を指で撫でるとさらに強く握ってくれた。今ここにいる涼が星くんではなく俺のことだけを見てくれていると思うとどうしようもないくらい嬉しくなる。
「心配して来てくれたの?」
コクリと頷いた涼は俺にゆっくりと近づいてきてじっと目を見つめてくる。
「……ちゅーしたい」
空耳だろうか。突然聞こえてきた言葉に耳を疑う。学校で涼からそんなことを言うはずがない。ついに俺は風邪と嫉妬でおかしくなったらしい。
「光生……していい?」
またさらに近づいてくる涼にこれは現実なんだと気づく。そんなかわいいお願いをする涼から視線をそらすとつやつやな唇が目に入り俺の理性が崩れかける。そんな俺に追い討ちをかけるように涼は「だめ?」なんて言いながら俺のシャツをギュッと握り首を傾げた。こんな状況でキスなんてしたら俺は絶対それ以上のことをしたくなるしそれに先生だっていつ帰ってくるかわからない。
「だめ。風邪がうつったらどうすんの。」
今ここでキスをすると我慢できなくなるなんてかっこ悪いこと言えるはずがない。でも風邪をうつしたくないのも本当だし断る理由はきっとこっちのほうがいい。俺の返事を聞くと不機嫌そうに睨んでくる涼のほっぺたをムニっと掴むとふんっと顔をそらされた。
「別に風邪うつってもいいもん。」
「涼が良くても俺がだめなの。」
ごめんねと頭を撫でて謝っても目を合わせてくれない涼はまだ怒っているらしい。どうやったら許してくれるか考えていると突然俺の鞄から朝もらったのど飴を開けだした。
「ふふっ、涼が食べるの?」
ふてくされた顔で飴を食べる涼がかわいくて笑っていると唇が突然触れて俺の口にのど飴が入ってきた。
「………え?」
「…今のはちゅーじゃないからいいでしょ?」
「…いや、これはキスな気がするんだけど、、」
「……のど飴食べさせてあげただけだもん!」
どう考えたってキスなのにそんなかわいい言い訳をしながら怒っている涼を見ているこの時間が楽しくて幸せだ。
「ふふっ、そっか。食べさせてくれたんだ。」
さっきから俺の事を何度も喜ばせてくれる涼の手を引っ張りベットに引き寄せればまたいつものように照れた顔をした。
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