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第109話

「こ、光生……」 急に引き寄せられ体が触れ合う距離に焦っている俺を見て光生は笑っている。 「さっきまで自分から近づいてきてたのになんで今さら照れてんの?」 「だって……」 光生にそんな嬉しそうな顔を目の前でされると誰だって照れてしまうと思う。そんな事を言える訳もなく言葉に詰まる俺に優しく微笑んでくれる。 「ん、ごめんごめん。」 黙っている俺を見て困らせたと思ったのか謝りながら体を離される。それがなぜか寂しくて寝ている光生の上に向かい合うように乗れば頭を撫でてくれる。 「ふふっ、どうしたの。」 「光生あったかい…」 お互いの体の間には布団があるのに光生の体温が伝わってくる。俺だけが今この温もりに触れていると思うとどうしようもないくらい嬉しい。 「のど飴涼も食べる?」 突然そう言ってニッと笑った光生は俺の返事を聞かずにキスをして食べていた飴を俺の口にいれてきた。 「っ!!ちょっと!ここ学校だって!」 なんの戸惑いもなくキスをしてくる光生から体を勢いよく離すとすぐにまた引き寄せて抱きしめられる。 「だって涼から誘ってきたんじゃん。」 「いや、、それはその、、」 確かに最初にキスをしたのは俺からだけど誘ったつもりはなくてただなんとなく光生とくっついていたかっただけだ。 「ねぇ、飴やっぱり返して。」 俺の頬をツンツンと指で触り目を閉じる光生はキスされるのを待っているらしい。 「新しいの食べたらいいじゃんっ!」 そんなに待ち構えられると恥ずかしくてキスなんてできない。仮にできたとしてもその後ドキドキして絶対に顔を見れない。 「涼が食べてる飴じゃないとやだ。」 「光生が風邪がうつるからキスしないって言ったんでしょ!!」 「風邪うつってもいいって言ったの涼じゃん。それにさっきキスしたからもう今さらでしょ。」  いつもならキスをしない俺に優しく微笑んでくれるか光生のほうからしてくれるのに今日は一歩もひいてくれない。こんなに頑固な光生はめずらしい気がする。ていうかなんでそんなに俺の食べてる飴が食べたいんだ。 「じゃ、じゃあ新しいの俺が手で食べさせてあげるから!」 「やだ。」   「光生のわがまま!」 さっきから何を言ってもやだしか言わない光生のほっぺたを軽くつまむと不機嫌そうな顔をする。 「のど痛い……」 「……え?」 「涼が食べてる飴じゃないとのど痛いの治んない。」 どうやら拗ねているらしい光生は横を向いていて俺と目を合わせてくれない。 「……俺の食べたら治るの?」 「うん。」と小さく頷く光生はいつもとは違い子供っぽくてかわいい。 「じゃあ光生こっち向いて。」 「やだ。」 向いてくれないとキスできないのにそれさえも嫌だなんてどれだけキスしなかったことに拗ねてるんだ。俺はそんな光生の顔を両手で包みこむように触れ俺の方に向ける。それからキスをして飴を口に入れた。 そっと唇を離して光生の顔を見るとそんなに喜ばなくてもと思うほど嬉しそうにしながら俺を見つめてくる。 「ふふっ、のど痛いの治った!」 いや治るの早すぎるでしょとつっこみたくなるけどニコニコしていて幸せそうだから言うのはやめておこう。 「……俺も食べたい」 こんなにモテるのに俺のことで喜んだり拗ねたりしてくれることが嬉しくてもう一度キスをしておねだりしてみると光生は突然起き上がり俺のことをベットに押し倒すと覆い被さってきてさっきと体勢が逆になった。 「涼、大好き。」 光生は飴を俺の口に入れるとすぐに取ってそれを繰り返すように何度もキスをしてくれ目が合うたびにニコッと笑いかけてくれる。 「…んっ…光生っ…もう飴溶けたって…!」 すでに飴はなくなっているのにキスを続ける光生を力いっぱい押せばゆっくりと離れていく。 「涼がくれた飴おいしかったね。」 ニッと満足そうに笑って俺を見てくる光生がいつも通りかっこよくてそれが恥ずかしい俺はやっぱり光生の顔を見ることはできなかった。

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