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1 初めまして
「ユースケ様、初めまして。俺はN-3198です。生前のヒナト様に依頼され、本日お伺いしました」
突然訪ねてきた長身の男は自らを製造番号のようなもので呼び、今は亡きヒナトに依頼をされてここに来たのだと笑顔で言った。
この世界には人間と所謂アンドロイドと呼ばれるものが存在するらしい。とは言っても人間とアンドロイドの違いは傍から見てもわからない。アンドロイドとはいえちゃんと戸籍も与えられ、人間と変わらずに生活をしているから、その存在を知らない者からしたらそれは「人」と変わらなかった。
言ってしまえば「都市伝説」のようなもので、俺自身も実物と会ったことがないから、本当かどうかは定かではなかった。
「えっと、エヌ……?」
「N-3198です。名前はユースケ様が呼びやすい名で好きに呼んでくださって構わないですよ」
「いや、そうじゃなくって……えっと、とりあえず中入って」
俺は「N-3198」と名乗る男を部屋に入れた。玄関先で無駄に通るハキハキとした大きな声は朝っぱらにはちょっとキツい。築年数うん十年のこのボロアパートでは、きっとお隣さんにも丸聞こえだろう。男は嬉しそうな笑顔を見せ、礼儀正しく靴を揃えて「ありがとうございます」と俺に言った。
「お茶とか……は飲まねえか」
「はい。お構いなく」
「………… 」
自身を番号で呼ぶこいつは聞くまでもなく本当にアンドロイドなのだろう。どう見ても人と変わらないその姿と声。初めてみるそれは俺にとってとても興味深いものだった。
詳しいことは知らないが、これらは癒しロボットなのだと言われている。そう、大切な人を失った人のために出来た癒しロボット、通称「亡き人ロイド」。噂でしか聞いたことのないそれが、今俺の目の前にいる。ぴんと背筋を伸ばして正座をし、俺が言葉を発するのを期待した目で見つめている。
生前の記憶を植え付けることができるというのが本当なら、このN-3198はヒナトの記憶を備えていて、すでに俺のことを知っているということになる。
「そっか、だから今日お前はここに来たんだな」
「え? なんて?」
「いや、今日は俺の誕生日だから……だから来たんだろ?」
今日は俺の三十三回目の誕生日だった。いまさら自分の誕生日など祝う気にはならないけど、こんなロイドを贈ってくるならもう少し早くにしてほしかったな、と、ヒナトを想った。
あの悲しすぎる別れからもう五年。俺は何にも前に進めないまま、気付けば五年も過ぎてしまっていた。
「は? いいえ、たまたまです。今日が誕生日だったのですか? それはおめでとうございます」
「………… 」
前言撤回。きっとコイツは俺のことなど何も知らない。悪気のない満面の笑みが更に俺を苛立たせた。ヒナトに依頼されたなんて悪い冗談、人の心に漬け込んだ酷い詐欺行為だ。都市伝説のようなアンドロイドの話をすんなり信じてしまった俺も俺だ。寝起きの頭で接したせいでどう見ても「人間」である自称Nナンタラのこの男の話をすっかり信じてしまった。情けない。どこでヒナトと俺のことを知ったのかわからないが、もう怪しさしかなかった。
「あ! 申し訳ございません。不快でしたよね。俺の説明不足でした」
コイツは俺の顔色を見るなり気持ちを察したのか、慌てたように姿勢を正した。
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