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2 面影

 将来有望な研究者だったヒナトと平々凡々なサラリーマンの俺──  はたから見ればきっと不釣り合いだったのかもしれない。それでも幼馴染だった俺たちは互いのことを分かり合い、あの日まで楽しく幸せに生きていた。  まさかあんなにも突然な別れが訪れるなんて夢にも思っていなかったから、俺の中には未だに様々な後悔が渦巻いている。一緒に住んでいながら互いの忙しさにすれ違うことも多かった。常に俺の前では笑顔だったヒナト。でも本当は俺に色々思うこともあったのかもしれない。もっと優しくしてやればよかった。休みの日は旅行に行ったりしてリフレッシュさせてやればよかった。ああしていれば、こうしていれば……もっと違う未来があったのかもしれない、とヒナトのことを思うと後悔と虚しさが未だに拭えずにいる。  N-3198は生前のヒナトが俺のために用意したアンドロイドだと言う。研究者だったヒナトなら、きっとそういったコネクションもあったのだろう。でも一般人である俺にとっては、そんな嘘みたいな話は到底信じることができなかった。 「──生前ヒナト様が記憶をここに植え付け、そして今日の日にユースケ様の元へ向かうよう俺はプログラムされました」  自分の胸の辺りを手のひらで軽く叩き、N-3198は俺を見て微笑む。ここにきてまだ自分をアンドロイドだというこの男に、苛立ちを通り越して少しおかしく思った。 「……俺、ヒナトのマンションからとっくに引っ越してんのによくここがわかったね?」 「そんなこと、データを調べればすぐにわかります」 「ああ、そう……」  ヒナトの記憶が植え付けられているという割に、コイツからはヒナトらしさは微塵も感じない。むしろ清々しいくらい全くの別人だった。 「なあ、ヒナトのアンドロイドだっていうならさ、もうちょっと頑張ってヒナトになりきれよ」 「いえ、俺はヒナト様ではなくて、ヒナト様にプログラムされたニュータイプのロイドです」 「ニュータイプだかなんだか、そんなのはどうでもいいよ。どこで俺たちのことを知ったか知らねえけど……俺はほとんど無職みたいなもんだし、金なんてねえから。何しに来たか知らんがもう帰ってくんねえかな」  もう話すことなどないと言わんばかりに、俺はその場で立ち上がる。朝っぱらからうるさかったのもあったけど、こんな怪しい奴を部屋に入れたのは俺の責任。都市伝説ロイド野郎にはさっさとお暇していただきたい。それにまたヒナトとの思い出が蘇ってきて辛かった。  決して忘れたくはないのに、いつまでも心の中で笑っているヒナトの顔を思い返すのが辛い。自分の記憶の中から歳月と共に思い出がこぼれ落ちていくのが怖い。俺は毎日必死にそれを溢さないように大切に抱えて独りで生きているんだ。 「ああ、ごめんなさい。そんな顔をさせるためにここに来たじゃないんだ。ユースケ様、泣かないで……」  慌てて立ち上がったロイドの手が俺の頬に優しく触れた。久しぶりに感じた体温に不思議とヒナトの面影を見て、思わずその手に縋ってしまった。

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