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5 重なる面影

 ロイは自然と部屋に馴染み、勝手にテレビをつけて寛いでいる。今日が初対面だというのに不思議と気まずいこともなく、俺はひとり台所に向かった。   「ねえ、俺の飯は無いの?」  少し早い昼飯にと、俺は自分の分だけ焼きそばを作っていた。台所に立つ俺の背後から顔を出し、不貞腐れたように呟く。まさか食事をするとは思わず驚いて振り返ると、「それ二人分じゃないよね?」とロイは顎でフライパンを指した。 「え? もの食えんの?」 「食うし。え? 何? 食べないと思ってたん?」 「いや、だって最初、お構いなく……って言ってたじゃん」 「それは言葉のまんまだし。朝っぱらからお邪魔しちゃって悪いなって、一応遠慮ってやつ? 別に飲食できないなんて言ってない」 「………… 」 「まさかアンドロイドだから電源とかオイルとかって思ってた? いやいや。体にコンセントとか給油口とか無いからね? ウケる」  ケタケタ笑いながら「腹へった」と冷蔵庫を漁るロイを見て恥ずかしくなった。でもあの時突然現れたアンドロイドに「お構いなく」なんて言われたら勘違いもするだろ? アンドロイドでも人間みたいに食事をするんだな、と俺は不思議な気持ちになった。まあ、どこからどう見てもロイは人間そのものだし、逆にロイの体から電源コードが出ているのもおかしな光景かもしれない。ていうか、やっぱりロイは人間なんじゃね? と頭の中がぐるぐるした。 「ごめんな。勝手に勘違いしてたわ。これしかねえから一緒に食お。で、どうせ足りないから後で一緒にコンビニにでも行く?」  出来上がった焼きそばを二枚の皿に分ける。今まで適当に食事を作っていたせいで、この焼きそばもいつもと変わらず酷く質素なものだ。もちろん肉なんて入っていない。はなから人に食べさせようと思って作っていないのだからしょうがない。今日はたまたま冷蔵庫に残っていた萎びたキャベツとちくわを適当に切って入れただけ。なんなら具は無しで麺だけの時だってある。焼きそばをテーブルに運びながら、こんなものを人様に出すことになるなんて、と少し恥ずかしくなった。 「ユースケはちゃんと自炊して偉いな」 「は? こんなの偉いなんて言われるようなことじゃないし。早く食えよ」  そうは言ったものの、こんなことで褒めてもらえて擽ったい気持ちになる。照れ臭さと嬉しさで、どんな顔をしたらいいのかわからなかった。  俺の作った焼きそばをゆっくりと頬張るロイを見つめる。ロイの仕草、食べ方が、泣きたくなるくらいヒナトにそっくりだった。麺を啜るのが下手くそで、少しずつ口に運んでは噛み切って咀嚼する。早食いの俺とは対照的にヒナトはゆっくりと時間をかけ味わって食べていた。そんな姿が目の前のロイに重なり、目の奥が熱くなった。

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