8 / 19
8 家族のような
ロイとの生活を始めてわかったこと──
ロイはヒナトが勤めていた研究所で働いているらしい。詳しいことは言わないし、俺からも聞くことはしないけど、とりあえず俺がいてもいなくてもロイは一人でちゃんと生活ができる。むしろ人並みの生活が危ういのは俺の方だった。
一人で生きていくのにギリギリの収入。何かと理由をつけては仕事を休み自堕落になる俺を、雇い主である社長はそっと見守っていてくれる。高校を卒業してすぐに就職した小さな会社で、長いこと俺を家族のように扱い接してくれている社長とその奥さんには足を向けて眠れないほど恩があった。とくにヒナトを亡くして独り住まいをするこのボロアパートに越した頃からは、食事に誘ってくれたり体調を気遣ってくれたり、何かと俺をかまってくれた。ヒナトの命日が近付けばひとりそっとしておいてくれることが増え、常にいい距離感で見守ってくれているのがわかる。俺も図々しいとは思うけど、そんな彼らを自分の親のように思っていた。きっとこれから先もずっと付き合いが続いていくであろう大切な人達……
「エイコさんがさっき芋蒸 したって言って、色々持って来てくれたよ」
玄関に入るなり出迎えてくれたロイがそう言った。どうやら俺がコンビニに行っている間に例の社長の奥さん、エイコさんが来ていたらしい。
「ああ、そうか。もうそんな時期か……」
「ん?」
俺はヒナトの命日が近づいてくるひと月ほど、どうしようもなく「駄目な人間」になる。ヒナトを思わない日は一日もないけど、とくにこの時期はその思いが悪い方へ傾き、ひとり悶々と考えてしまう。そのほとんどが後悔と絶望だ。
「ヒナトのね……亡くなった日が近づいてくるとさ、なんかいまだに俺、駄目なんだ」
心配そうに俺を見るロイに話を続けた。こんな話、言葉に出して誰かに聞いてもらうなんて初めてだった。
「俺さ、ヒナトがいなくなってからしばらくの間、塞ぎ込んじゃって何もできなかったんだ。仕事も休ませてもらって、社長とエイコさんは俺が何も食べないから食事を作ってくれたり飯屋に連れて行ってくれたり、ほんとよくしてくれたんだよね」
それは決してお節介などではなく、俺がちゃんと「生きているか」の確認のようなものだった。近すぎず遠からず、いいタイミングで俺の様子を見に来てくれ、その時の状態を見て接してくれる。そうしてこの時期になるとエイコさんが俺の好物を持って家に来てくれる回数が増えるんだ。
「今年はロイがいたおかげでなんか楽しくやれてたんだな」
「そ? それならよかった。ユースケ、芋温かいうちに食おうよ」
ロイは俺の話を聞いても「それがどうした」という顔をして我関せずに行動する。最初の心配そうな顔はなんだったんだ。でも、いつも闇の底に落ちていく感覚に襲われるのこの時期に、こんなロイと過ごしているおかげか今年はそんなことすら忘れて生活ができていた。
ともだちにシェアしよう!