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11 かつての場所

「嘘だろ? 信じらんない。何でそういうこと最初に言わねえんだよ」  かつてヒナトと共に生活していたマンションの前──  俺は驚きを隠せなかった。新しく物件を探していたらロイに「いいところがある」と半ば強引にタクシーに乗せられ、連れられてきたのがこの場所だった。話を聞くと、ロイはこのマンションに部屋を借りているらしい。もちろん現在進行形でだ。 「別に聞かれてないし、初めから俺と一緒に住む前提でユースケが接してたんじゃん」 「いや、まさかロイの家があるなんて思わないだろ!」 「え? 何でだよ」 「……こっちのセリフだ」  契約時に「断ったら元の場所に帰るだけ」と言っていたのを、工場のようなところへ「返品」されるとイメージし、ロイには帰る場所がないのだと俺は勝手に思い込んでいた。なにも一緒に住まなくてもよかったのだと今頃になって知らされて、自分の勘違いに呆れ果てる。  ヒナトがいなくなってからすでに何年経過しているのか。それなのに、俺ときたらいつまでもどうしたらいいのかわからないでいる。忘れたくないのに思い出すと辛くなる。見慣れたこの場所に偶然にも舞い戻り、ここに立っているだけで当時の感情が押し寄せ、足元から崩れていきそうな感覚に怖くなる。ロイの住まいがここにあることにも驚きだけど、何よりもこの俺をここに連れてきたロイの意図がわからなかった。 「……嫌がらせか? 何なんだよ……」 「何でそうなる? 嫌がらせってどういうこと?」 「で? ロイは住んでるところがあるから俺は引っ越さなくて今のままでいいってことだろ? わざわざここに連れて来なくてもいいだろうが」  白々しく感じるロイの言葉に苛つきが増す。心配そうなロイの顔がすっと近づき、かつてのヒナトのような困った笑顔を見せながら小さく首を振った。 「ううん、違うよ。ここなら今より広いし二人で住めるだろ? そう思って連れてきたのに、そんな怒ることないだろ」 「…………」  とりあえずお茶でも、とロイの部屋に招かれる。複雑な感情が動揺する心をさらに揺さぶり、油断すると泣きそうになってしまうのを必死に堪え部屋に入った。  そこはヒナトと暮らしていた部屋の階の下、間取りはまるっきり同じだけどロイの部屋には物が少なく、殺風景に見えるほどすっきりとしていた。   「なんか変な感じだ」 「なにが?」 「なにがって……いや、またこのマンションに来ることになるなんてさ。俺が住んでた部屋と間取りも一緒だし、なんか色々思い出す……」 「待って、え? ユースケもここに住んでたの?」 「うん、そうだけど。なに? 知らないで連れてきたのかよ? ヒナトの記憶、持ってるんじゃねえの?」  ロイは知っていてここに俺を連れてきたのだとばかり思っていた。目の前で目を丸くして驚いているロイを見て力が抜ける。それなら本当に単なる偶然。すごいことだな、と感心してしまった。 「いや、記憶っていうか感情のようなもの? が付加されただけだからなぁ。一部の記憶が抜けてるのもあるみたいだし」  ロイ自身にもわからないことがあるのか、一瞬怪訝そうな表情を浮かべるも「びっくりした。すごい偶然だね」と、何事もなかったかのように笑顔を見せた。  

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