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16 二人で外出
ここに俺が越してきてからロイの様子が少し変わった──
それはほんの些細なこと。毎日顔を合わせる俺だからなんとなく気づけただけで、「なんでもない」と言われてしまえばそれ以上追求もできない程度の小さな変化だった。
俺はロイと生活するようになって人並みに生活ができるようになっていた。たまにヒナトのことを思って気持ちが落ちることもあるけど、以前と比べたらなんてことはない。それもこれもロイがそばにいてくれたおかげだ。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
今日もいつもと同じ。仕事に出る俺を玄関でロイが見送る。俺が帰宅する頃には食事の用意はもちろん、その日の洗濯や部屋の掃除など済ませてあるから、ロイは一通りの家事をやってくれているのだろう。でもロイだってヒナトのいた研究所で仕事をしていると言っていた。ロイが俺に優しいから、不満もなにも言わないから、すっかり俺はロイに甘えてしまっていた。最近少し疲れているのか、元気がなさそうに見えるロイに俺は何かしてやれるだろうかと考えた。そう、日頃の感謝の気持ちを伝えたかったんだ。
「メッセージに気が付いてくれてよかった」
「ユースケってば急だからびっくりした。どうしたの?」
「いや、たまにはこういうのもいいかなって思って」
「うん……嬉しい」
たまには外で食事をしよう、と、俺は仕事終わりにロイを誘った。街中で待ち合わせをするのも初めてのこと。少し緊張しながら待つ俺に、ロイはいつもと変わらない様子で「ありがとう」と呟いた。
「まあ外で食事って言ってもこんなところだけど」
「いいんじゃない? 俺、好きだよ。ここビックリするくらい美味しいよね」
入った店は常連しかいなさそうな小さな居酒屋。過去に何度もヒナトに連れてきてもらったことのある店だった。ロイの言う通り、ちょっと小汚いけど大将の作る料理が絶品で、家に持ち帰って食べたこともあるほどだった。
「ロイもこの店知ってた? そうなんだよ、ここの料理は絶品だよな」
「……うん」
やはり気のせいなんかじゃなく、ロイの元気がないのは明白だった。それでも俺はその理由も聞けずに何も気がつかないふりをしてしまう。なんだか聞いてはいけないような気がしてしまってダメなんだ。今更遠慮なんてする必要もないだろうに、なんでこんなに不安になるんだろう。
カウンターに並んで座り、二人で乾杯をする。順に運ばれてくる料理に箸を伸ばし、久しぶりに会った大将とも会話を楽しんだ。ロイは知ってか知らずか、ヒナトの好物ばかり頼んでいる。自家製の絶品味噌を添えた野菜スティック、もつ煮込み、だし巻き玉子……酒を飲まないヒナトは決まって最後に土鍋の炊き込みご飯とデザートを注文し、俺はそれを少しだけもらう。少し懐かしさに浸りつつ、俺はロイの様子も気になってしまい、いつも以上に酒が進んだ。
「ロイ、いつもありがとうな」
「なに? 急に改まって」
「いやさ、ロイだって仕事あるだろうに、いつも俺より早く帰ってきて家のことやってくれてるだろ? 俺、甘えてばっかでなにもしてねえなって、ちょっとは申し訳ないって思ってんだよ」
「ふふ、いいよ今更そんなこと……俺は好きでやってるんだし」
急に素直になって気持ちが悪いと笑うロイは、少し酔いの回った俺の肩に頭を預けた。
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