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朔矢side

 あれから俺の中で何かが変わった……  頭から離れない圭佑の声……  今まで関係を持ったどの女よりも俺を興奮させた。  帰ってすぐ頭からシャワーを全身に浴びて、すっきりと忘れようとしたのに、気づくと俺は二人を思い出して自身で果てていた。  あいつは女っ気なんて全くなかったけど、それはサッカーばかりやっているからだと思っていたのに……。  別に俺たちの関係が変わった訳じゃない……  だけど、俺の中であいつは……圭佑は親友じゃなくなっていた。 「翔兄……」 「何で?」 「ここ、学校だから……。ほらっ、みんな来るし……。あっ……」  誰かが来たらとキョロキョロ辺りを見渡しだした圭佑と目が合う。  逸らすこともできるのに、俺は何故かそこから動けずにいた。 「朔矢……」  気まずそうに俯き加減で俺の名前を呼ぶ……  ふざけるな……  たった今まで、自分の目の前にいる男の名前を呼んでいたんだろ?  そいつとキスして、その先も……  俺は何度も夢の中で圭佑、お前を抱いたけど、それは現実じゃない……  現実の俺たちは、ただの親友で……お前には恋人がいる。  何も知らないフリをしていた。そうすれば、お前を失わずに済むと思っていたから……。だけど、もう知らないフリをしたままじゃいられない。 「学校でいちゃつくなよ……」 「あのっ……これは……」 「いちゃつくなら、せめて見られないとこですれば?」  喧嘩腰な物言いになってしまっている自分に気づきながらもどうしようもなくて、俺はそのまま通りすぎようと背を向けた。 「へえ、この状況がそんなにイラつく?」  気持ちを煽るように背後から聞こえてきた声は、圭佑とは違うもので、すぐに相手の男だとわかる。煽りに乗るもんかと無視して歩き出すと、 「気になるんだろ? 俺たちの関係……」 「ちょっと、翔兄……?」  さらに核心をついてくる男に、圭佑が困ったように止めに入ろうとした。  イライラが募る……  何で俺が誰だか知りもしない男に試されるような質問をされるのかも、その相手が俺の知らない圭佑のことを知っていることも、全てがムカつく……。 「俺は、お前の知らない圭佑の可愛いところをいっぱい知ってる。キスをするときにギュッと目を閉じること、ちょっと触れるだけですぐにビクッて震えること、気持ちいいときに必死で声を我慢して唇を噛んでしまうこと、イク時の真っ赤になった顔……」  次々に俺の知らない圭佑のことを口にする男に、俺は気がつくと足を止めていた。  強く拳を握る…… 「翔兄……もう、やめてよ……」 「何で? 全部本当のことだろ?」 「だけど……」 「こいつ、今……必死で俺に殴りかかるのを堪えてる」 「へっ?」  その言葉に、圭佑が咄嗟に俺を見る。  そんな目で見るな……  男の言ってることが本当だと気づかれてしまう。  俺の知らない圭佑を知っている男に、俺は自分が思っている以上に嫉妬している。  悔しくて、苦しくて、どうして俺じゃないんだって気持ちが溢れてくる。  いつも近くにいたのに、何で俺じゃなくこの男なんだ……。  こんなやつ……圭佑と違いすぎるのに……。 「あーあ、何か冷めちゃったし……。圭佑、悪いけど俺帰るから」 「えっ、あっ、翔兄……」 「またなー」  手をヒラヒラとさせながら男が背を向けて歩き出し、こんな状況にあたふたとしている圭佑と、冷静になれずに男の背中を睨み付けたままの俺。 「おい、ちょっと待てよ」 「なに?」 「あんたと圭佑の関係は?」 「それは……圭佑から聞けばいいことだろ?」 「それは……」  至って冷静に対応してくる男に、俺はまた拳をキツく握った。  それが出来たら……でも、本当のことを圭佑から聞く勇気はない。  すると、男がスッと俺へと近づいてきた。 「おい、徳永朔矢……。お前、遅すぎなんだよ」 「はっ?」 「圭佑を泣かした分だけ、ちゃんとしろ……。でないと、ただじゃおかない……。いいな?」 「なっ……」  さっきまでと違う低い声で耳打ちしてくる。  何を言ってるのか言葉の意味がわからずに男を見上げると、 「じゃあな」  そう言って、肩をポンッと叩いて男は帰って行った。  その表情はどこか涼しげで、俺の中にあった嫉妬心がふっと和らいだ気がした。  男がいなくなったことで二人になった俺たちの間には気まずい空気が流れている。  圭佑も俺の様子を伺うようにチラチラとこちらを見ているけれど、声は掛けてこない。  このままじゃラチがあかないと思い、ここはまず俺が…… 「あいつと付き合ってるの?」 「ううん……翔兄は、従兄弟なんだ」 「従兄弟……全然似てない」 「僕たち、正反対な性格だから……」 「だろうなって思った。だけど、二人の関係性が全く見えない」 「うん……。翔兄はね、僕のためにただ……」  言いかけて言葉に詰まってしまった。唇をぐっと噛み締めているのがわかる。 「二人は……SEXしたの?」  俺は、単刀直入に質問した。  きっと、こいつにはちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないと思ったから。  真実を知るのは怖いって気持ちもあるけれど、知らなきゃいけないと思うから。  俺の問いかけに、首を大きく横に振った圭佑。 「うそ……」 「うそじゃないよ……」 「じゃあ、キスは?」 「した……」 「それ以上のことは?」 「僕はいつも……してもらうばかりだから……」  恥ずかしそうに頬を赤く染めている。  してもらう=弄られる  結局、触れられてんじゃん……  それでイカされてんじゃん…… 「何で、あいつなの?」 「何でって……?」 「俺じゃダメだったの?」 「えっ……だって……僕は……」  自分でも何を質問してるのか……バカげていると思った。それでも、お前に初めて触れたのが俺じゃないことに、やっぱり嫉妬している。  たとえ理由がどんなことであろうと……。

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