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第5話
ふう...思いもよらない状況で終わり、僕は肩を落とした。
...失敗した。失敗してしまった...。お化け屋敷で目論んでいたのに。
あんなことやこんなこと....!
「えっ?あ、ちょっと待ってて、奏斗」
遊園地のゲートをくぐった僕と兄だったが、兄は何故か振り返り、すぐさま走り寄っていった。壁に。
なに...何と話してるの、お兄ちゃん...。
僕は真摯に壁となにか会話しては、たまに頷き、あー!と何故か叫んでる。
怖い...怖いよ、お兄ちゃん...。
壁に笑顔を向けたお兄ちゃんはお辞儀して小走りに戻ってきた。
「お化け屋敷のスタッフさんがさ、ずっと言いたかったんだけど、デニムのファスナー開いてますよ、て。女性だったから恥ずかしくてなかなか言えなかったらしくって、悪いことしちゃったな」
「...デニムのファスナー...?」
「うん。お化け屋敷に入ってすぐから、ジェスチャーで教えてくれてたみたい。なかなか気づかなかったあ」
兄の満面な笑顔に僕は丸い目を向けた。
「今どきのお化け屋敷って凄いね!一瞬で居場所を変えたり、まるでイリュージョン!」
「ち、ちなみにどんな人....?」
恐る恐る聞いてみた。
「白の、こう長いワンピースで、髪もこう、黒髪ロングで、大丈夫かな?ってくらい、色白、というかちょっと青ざめた感じだったかな?まあ、メイクだろうね」
お兄ちゃんは笑顔を見せたけど...お化け屋敷で僕は知らない、見てはない、そんなスタッフ。
再び、さあっと血の気が引き、鳥肌が立った。
....もしかして。
言えない。
それ、本物のお化けなんじゃ、なんて。
「でも気になること言うんだよ。もう思い残すことはありません、ありがとうございました、なんてさ」
僕は言葉が出ない。
「生きていたらきっといいことありますよ、諦めちゃ駄目です!て言ったんだけどさあ...大丈夫かなあ....」
....もしかして、成仏させちゃったのかな、お兄ちゃん。
あ!というか、初デート!と浮かれすぎて、お兄ちゃんのファッションチェックを疎かにしてた....!
半分は僕のせいか...。
「そ、そっか、きっと大丈夫だよ、お兄ちゃん」
「そっかな、だといいな」
お化けを成仏させちゃうなんて、さすがお兄ちゃん...!
不思議と誇らしくなった僕なのでした。
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