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第35話

「ぼ、僕、ハリセンがなかったら、元に戻っちゃう...」 涙目になった蓮太に慶太はぎょっとした。 「ハリセンで保ってきたのに!返してー!」 「やだー。てか、そういえば。ハリセンを手にするまで、蓮太、泣き虫だわ、弱虫だったっけ...?」 慶太が首を傾げながら宙を仰いだ。 「そうだよぉ....お兄ちゃんが8歳の頃、父さんと相撲行くまで、お兄ちゃんは僕のヒーローだったのに....」 ポロポロと蓮太の頬を涙が伝う。 「僕がレンタル、ていじめられたり、パシリにされたり、その度、僕は部屋で泣いた。お兄ちゃんはそれを見るなり、お兄ちゃんに任せろ!お兄ちゃんが助けてやるっ!て....」 「あー、思い出した。蓮太をいじめたら許さない!僕をやっつけてからにしろ!て、結局、僕もボロボロにされたなー」 「そ、そんなお兄ちゃんでも、う、嬉しかった...でも、相撲を見に行ってからはお兄ちゃん、力士さんに夢中になって....」 「蓮太を放ったらかしにしてたなー」 「だから、ハリセン返して...ハリセンがあれば強くなれるから、僕」 「嫌ですー」 蓮太が、うっうっ、と泣きじゃくり出した。 「蓮太は僕が守るから返しませーん」 蓮太を見ないまま、慶太があっけらかんといつも通りの口調。 え、と涙目の蓮太の瞳が丸くなる。 「あー、ポスター、剥がすの、手伝ってくれるー?蓮太」 「い、いいの...?」 「うん、大切なものはなにか、わかった気がするー」 「....抱き締めていい?」 「蓮太、αだから、嫌だ」 「なんで!?」 「襲われそうだからー。僕、まだ、一度もヒート来てないから怖いもーん」 「....わかった。じゃ、手、繋いでいい?」 慶太が蓮太に笑顔を見せると、差し出した手に、蓮太はそっと自身の手を重ねた。

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