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怒ったお兄様の心境な話
「そう言えばお兄様、あの時なんて言ってたの?」
「……言わない。」
「っえー!なんで?僕にも言えないことなのっ?」
お前だから言えないんだろう?
あの時、俺は。
お前に裏切られたような気持ちだった。
お前は、俺の、弟なのに。
弟で、この世で唯一心許せる人間で、俺には、お前しかいないのに。
ただでさえ、お前が誰かと浮名を流すたび、娼館に足を運んだと聞かされるたび、気が気でなかったのに。
ついに、朝帰りなんてものをするから。
お前は、俺以外に心許せる人間を、作れるのかもしれないと、そう思い至ってしまった。
俺には、出来ないのに?
それほど、濃密な時間を過ごせる人間を、作ってしまったのかと思って、あの時初めて恐ろしくなった、など。
言えるわけが、ない。
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