5 / 6

怒ったお兄様の心境な話

「そう言えばお兄様、あの時なんて言ってたの?」 「……言わない。」 「っえー!なんで?僕にも言えないことなのっ?」 お前だから言えないんだろう? あの時、俺は。 お前に裏切られたような気持ちだった。 お前は、俺の、弟なのに。 弟で、この世で唯一心許せる人間で、俺には、お前しかいないのに。 ただでさえ、お前が誰かと浮名を流すたび、娼館に足を運んだと聞かされるたび、気が気でなかったのに。 ついに、朝帰りなんてものをするから。 お前は、俺以外に心許せる人間を、作れるのかもしれないと、そう思い至ってしまった。 俺には、出来ないのに? それほど、濃密な時間を過ごせる人間を、作ってしまったのかと思って、あの時初めて恐ろしくなった、など。 言えるわけが、ない。

ともだちにシェアしよう!