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無邪気で何も知らない皇子を調教する7
調教師は王都を離れた。
仕事はしていた。
売れない男娼を仕込んだり、貴族の愛人になってのし上がりたい少年に性技を教えたり。
でも、前ほどの熱意はないし、自分で抱いて教えることもない。
だが、やはりその仕込みには定評があり、仕事はそれなりに入ってくる。
もう、人を滅ぼすような作品を創りたいという気持もない。
皇子には勝てないからだ。
自分の作品ではない、あの皇子が1番の理想だったとは。
誰かに抱かれているかと思うと胸が痛い。
奇妙な噂は聞いた。
王様が送られるはずの皇子に、そう、自分の息子に手を出した、と。
有り得ない話ではない。
皇子がそういう目で見つめたなら、だれだってあがらえるものではない。
だが、有り得ない。
人質は間違いなく送られたからだ。
一度皇子を抱いたなら、手放せるはずがない。
噂は噂だ。
送られた皇子を気に入り、敵国の王は皇子を寵愛しているという。
当然だろう。
王を滅ぼすか滅ぼさないかは皇子次第だろう。
胸が痛んだ。
抱きしめて眠った思い出だけを抱えて生きていく。
仕方ない。
こんな男のモノではなかったのだ。
男は頼まれた仕事に向かうことにした。
売れない男娼に客がつくようにしてやらないといけない。
仕込みというよりは技術指導だ。
出かけようと立ち上がったとき、誰かが扉をあけて入ってきた。
ノックさえなく。
「誰だ」
用心する。
この家に仕事以外で尋ねてくるものはいない。
入ってきたソイツは頭からかぶっていたマントを脱いだ。
明るい茶色の髪が広がり、明るい茶色の瞳が調教師を見つめていた。
有り得ない。
有り得ない。
成長していた。
髪も背も伸びて。
美しくなって。
でも有り得ない。
「時間がかかった。貴方をさがすのに、貴方のところへくるのに」
その声も大人のモノになってはいたけれど。その話し方は間違いないけど有り得ない。
「有り得ない。この国にはいないはずだ」
調教師の声は驚きに嗄れていた。
「貴方が言った。抱かれて支配して望みを叶えろと。だから父上に抱かれてあの国に送られるのを止めた。送られたのは兄上の一人だ。神官になってらっしゃったのを還俗させられて送り込まれたのは御気の毒だったけれど、いまではあの国の王と仲良くやっているからいいんじゃないかな」
皇子はケロリと言った。
意味は分かったが理解は出来ない。
「父上も死んだよ。僕に溺れて。僕の上で死んだ。兄上達が今、王座を争っている。その一人に僕を抱かせて言いなりにして、貴方を探した。兄上も死んだよ、僕の上で干からびて」
淡々と皇子は言った。
「貴方が言った。僕の願いは叶うって。だからそうしたよ」
皇子の明るい目が調教師を見つめる。
皇子は抱かれて支配しして、抱き殺して、願いを叶えた。
どんな野望も叶うだろうに、望んだのがここに来ることだったと?
調教師は戸惑う。
「可愛いって言って」
皇子は泣いた。
初めてあった時の無邪気さで。
いや、何も何も変わってない。
無邪気に信じつづけたのだ。
こんな酷い男の言うことを。
「ろくな男じゃねぇぞ」
調教師は呻いた。
「助けてくれた」
皇子が泣く。
「勘違いだ!!」
そんな有り得ない。
この世界すら望めるのに、なんでこんなところに来るのを望む。
「貴方だ。もう貴方だけとしかしたくない」
皇子の言葉に呆れる。
調教師相手に何言ってるこのバカは。
だけど。
抱きつかれたなら。
飛び込んでこられたなら。
抱きしめるしかなかった。
初めて寝た男に勘違いしてるとしても。こっちはとっくに墜ちているのだ。
「可愛いな、お前」
調教師は呻いた。
いや、調教師は完全引退だ。
もうこの皇子以外に触れることなど出来ない。
支配されているからだ。
「好き」
そう言われて。
らしくもなく。
調教師は泣いた。
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