もしも自分が彼のように美しかったら、あの人も見てくれるだろうか。 　ふと浮かんだ思いに、掃除ロボットは首を傾げた。なぜそんなおかしな考えが浮かんだのだろう。自分は使役ロボットで、セクサロイドの少年とは違って当然のはずなのに。 　ドーム状の天井にサッと鳥の影が走る。鳥に目を奪われたのはほんの一瞬のことだ。そのとき、身体に衝撃を感じた。 「あ、悪い。うっかりして、目の前にいたのに気づかなかった」 　掃除ロボットの白いボディから、ミートソーススパゲティがだらりと床に落ちた。目の前にいるのは、以前あの人が助けてくれたときに、絡んできた白いパンツの男だ。 「すぐに片付けます」 　掃除ロボットを嗤うように、男は床に落ちたスパゲティをぐしゃぐしゃと踏み広げる。 「ほら、早く片付けてくれよ」 　一体何の騒ぎかと、人々の目が自分たちに集まる。 　ああ、どうしよう。早く片付けなければ。 　その場の調和を保つのが自分の役割なのに、いまこの場の空気を乱しているのが自分だということに、掃除ロボットは焦っていた。胸元のライトが忙しなく点滅する。足元のローラーがウーウーと唸った。 「ケツの穴が小さい野郎だな」 　目の前に、セクサロイドの少年が立っていた。美しい少年の口から出たとは思えない言葉に、男はぽかんとした表情を浮かべた後、ようやく意味を理解したように赤くなった。 「そ、それはどういう意味だよ！　俺のことを言ってるのかよ！」 　いまにも掴みかからんばかりの男に、少年は瞳を向けると、ふわり花が綻ぶように微笑んだ。 「はっきりそう言ったつもりだけど、わからなかった？」 　周囲からくすくすと笑い声が聞こえた。男の顔が、怒りのあまりさっと白くなった。 「ふざけんなっ！　くそロボットがっ！」 「ヴィオラ」 　連れの男が自らの背に少年を庇うように、白いパンツの男に向き合った。 「私の連れが失礼なことを言ったようだ」 　表情は一見穏やかだが、その瞳は目の前の男を静かに圧倒している。それは、普段から人を従わせることに慣れた者の仕草だった。明らかな格の違いを見せられて、白いパンツの男は舌打ちをすると、逃げるようにその場から去った。 「よけいな真似をしやがって」 「きみが一人で対処できるのは知っているよ」 　助けてもらったにも関わらず、憎まれ口を叩く少年に対して、男は気分を害したようすもなく穏やかに微笑んだ。そんな男の態度に、ヴィオラと呼ばれた少年は横を向いて、チッと舌打ちした。 　掃除ロボットは驚いていた。彼らは明らかに掃除ロボットが知る人間とロボットの関係を超えていた。 「何見てんだよ」 　紫水晶の瞳が掃除ロボットをきつく睨んだ。吸い込まれそうな瞳は怒りのためか爛々と燃えていて、思わず見とれてしまいそうになる。