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第7話
「いえ。あなたは美しいなと思いまして」
掃除ロボットの答えに、ヴィオラは不意をつかれたような顔をした。その口元に意地の悪い笑みが浮かぶ。
「代わってやろうか?」
「え?」
「あんた、あの人間のことが好きなんだろう? あいつのこと、いつも物欲しそうな目で見ているもんな」
一瞬何を言われているのかわからずに、掃除ロボットは戸惑った。
私があの人のことを好き? まさか、そんなはずはない。なぜなら自分は使役ロボットで、誰か特定の人物を好きになることなどあり得ないからだ。なのに、ざわざわと落ち着かない心地になるのはなぜだろう。
「何を言っているのかわかりません」
まるで掃除ロボットが嘘を言っているかのように、じっとこちらを見るヴィオラの瞳に居心地が悪くなる。
「そうか。お前、気づいてないんだ」
ヴィオラは軽く目を瞠ると、何が面白いのか、ふうん、と口の端で笑った。
ヴィオラ、と客の男が呼んだ。ヴィオラは短く舌打ちした後、開き直ったような笑みを浮かべた。
「はいはい、お仕事しますよ。――さっきの、冗談じゃないから」
囁かれた言葉に、掃除ロボットは顔を上げた。
「明日の夜、そうだな、午前一時。B地区のA01ポイントにこい。チャンスは一度だけ。遅れても待たない。意味がわからないというなら、無視すればいいよ」
薄汚れたボディに、傷ひとつない滑らかな手がのせられる。ヴィオラは内緒話をするみたいに用件だけを告げると、駆けるように連れの元へと戻っていった。
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