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第12話

 瞼にぐっと力を入れてみた。目の縁が糊づけされたような抵抗を感じるが、何とか開けられそうだ。瞬間、刺すような眩しさに襲われて、掃除ロボットは瞬きした。――そう、自分は確かに瞬きをした!  色鮮やかなものが次々に目に飛び込んでくる。くすんだ部屋の壁紙はグレーで、さまざまな食べ物のパッケージの空き箱に描かれたカラフルなロゴに目がちかちかする。蛍光灯の眩しい光。まるでベールが取り払われたように、すべての色や物が視界に入ってきて、掃除ロボットは目眩がした。 「あ……っ」  身動きしたときにバランスを崩し、床に落ちた。とっさに受け身を取ることができずに、身体の側面を強く打ちつける。 「痛……っ」  痛い?  ずきずきと脈打つような痛みに、パニックを起こしそうになった。確かに声を出した感覚はあるのに、まるで自分ではないものを耳にしたようだ。そのとき、視界に入ったものにぎょっとした。それは美しい人間の腕だった。うっすらと血管が透けるような肌理の細かい肌、すらりとした指。それらのすべてが、これまで目にしたことのない角度で視界に入る。そう、まるで自分についているかのように。薄汚れた部屋の片隅に、打ち捨てられたように置かれたかつての自分の姿を捉えたとき、掃除ロボットはようやく自分が人間の姿に変化していることに気がついた。 「あっ」  鼓動が激しく鳴っている。これまで鼓動なんて感じたこともなかったのに、壊れそうなほど胸のあたりが騒ぐ感覚に、掃除ロボットは恐怖を感じた。がくがくと身体が震える。 「インストールの途中でバグったか?」  いきなり顔の近くで呟かれて、掃除ロボットはびくっとした。 「あんたよかったよなあ。あんないつ廃棄されてもおかしくないオンボロが、いまじゃ最先端のロボットだ。誰も中身が入れ替わったなんて考えない」  なあ、という男の視線の先に、すらりとした黒猫の姿があった。猫は、男の話には興味がないようすで、自分の前足を舐めている。 「見てみろよ、この肌。信じられるか、まるで高級なシルクを触っているみたいだ」  男は汚れた指で掃除ロボットの肌を遠慮なくまさぐると、何がおかしいのかくっくと笑った。ぷくりと膨らんだ茱萸のような突起を弄られて、掃除ロボットは「……ッん」と声を漏らした。 「……あの、何をしているのですか?」  掃除ロボットはうつむき、困惑するようにもじもじとした。止めてほしいのに、男の手が自分に触れるたびに、身体の奥から堪え切れない何かがわき上がってくる。なぜそんなところを弄るのだろう。 「あ、……んっ。やっ、止めてくださいっ」

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