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第23話

 3 「帰りは夕方ごろになる。俺が出ていったら鍵を閉めて、誰がきてもドアを開けるなよ」 「はい。大丈夫です。崇嗣さんも気をつけてください」  朝食後、マルは仕事に出掛ける崇嗣さんの後を、玄関までついていった。崇嗣さんはマルをじっと見ると、頭にぽんと手を乗せた。 「ああ、いってくる」  扉が閉まる。崇嗣さんがいなくなっても、マルは先ほど彼が触れた場所に手を触れ、その場に立っていた。 『そのままついていきたそうな顔をしているぜ』  足元で聞こえるヴィオラの声に、マルは自分がぼうっとしていることに気がついた。 「いけない。後片づけをしないと」  リビングに戻り、朝食の後片付けをするマルを、ヴィオラが呆れたように見ている。  あの日、マルを助けてくれた崇嗣さんは、翌朝どこからともなく現れた猫を訝りながら、無理に追い出すことはしなかった。崇嗣さんはきっと本人が思うよりもやさしいのだと思う。誰もが見て見ぬふりをする中、崇嗣さん一人が人間にひどい目に遭わされる使役ロボットを放ってはおけなかった。彼に助けてもらったマルはそれを知っている。  崇嗣さんとの生活が始まって、マルが彼に約束させらせたことはふたつある。  ひとつは、一人で勝手に外に出ないこと。ふたつめは、崇嗣さんが留守のときには、鍵を閉めて知らない客が訪れても決してドアを開けないこと。  このあたりは治安が悪い上、崇嗣さんの仕事上、危険は常に隣り合わせだ。REX社のセクサロイドは希少で、裏では高値で取引きされるため、自分の存在は知られないほうがいい。ここにいられるだけで充分だと理解していても、崇嗣さんが危険な目に遭っていたらと思うと、マルは不安でたまらなくなる。自分にも、何か崇嗣さんを手伝えることがあればいいのにと思ってしまう。 「ヴィオラ? 何をしているのですか?」  ソファの上でヴィオラがいじっているものを目に止めて、マルははっとなった。それは昨夜崇嗣さんが作業していたものだ。 「それは崇嗣さんが仕事に使うものではないですか? 勝手に取ってしまったのですか?」  マルを見るヴィオラが、だから? とでも言うかのように、金色の目を細めた。 『せっかく僕が身体を交換してやったのに、一体いつあの人間に気持ちを伝えるつもり? さっさとセックスでも何でもしたらどうなんだよ、って、ちょっと、人の話を聞いてるの? あっ!』  何やらぶつぶつと文句を言っているヴィオラから取り戻したUSBメモリーを見つめ、マルはどうしよう、と思い悩んだ。崇嗣さんはこれがないと困るのではないだろうか? けれど、一人で勝手に出るなと言われている。  マルはUSBメモリーを握りしめると、コートに手に取り、ヴィオラに話しかけた。 「ちょっと出掛けてきます。大人しく留守番をしていてくださいね」

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