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第24話

 外に出ると、マルは意識を集中して、崇嗣さんの気配を探った。ヴィオラの身体には最新のカメラアイが搭載されており、防犯カメラやドライブレコーダーなど、さまざまな端末にアクセスすることができる。  見つけた!  街外れのタバコ屋の前で崇嗣さんの姿を見つけて、マルは顔を上げた。フードを下ろして顔を隠し、ひとめを引かないよう、俯きがちに早足で歩く。前にここへきたときは夜だったが、昼間に見ると、治安の悪さは顕著だった。ここはあまりにマルが前にいた場所とは違った。日々を生きるのに精一杯の暮らしを送る人々の日常が透けて見えるようだ。 「崇嗣さん」  背後から声をかけると、崇嗣さんはぎょっとしたように振り向き、マルの腕を掴んだ。そのまま建物の陰へと引っ張り込まれる。 「どうやってここにきた」  張りつめた表情から、崇嗣さんが怒っているのが伝わってきた。 「申し訳ありません。これを渡さなければと思いまして」  マルはコートのポケットからUSBメモリーを取り出すと、崇嗣さんに渡した。 「ヴィオラが勝手に取ってしまったようなのです」  崇嗣さんはじっと考え込むと、仕方ない、とため息を吐いた。 「これから取引相手に会う。いいか、顔を隠して、何を話しかけられても一言も喋るなよ」  できるかと問いかけられ、マルはこくこくと頷いた。背を向けた崇嗣さんの後を、マルは慌ててついていく。黒いコートを身に纏った崇嗣さんの後ろ姿は隙がなく、モールで再会したときを思い起こさせた。崇嗣さんに迷惑をかけちゃいけないと、マルが気を引き締めたときだった。公園の前にいた若い男がこちらを見ると、周囲を警戒するように視線を走らせた後、軽い足取りで近づいてきた。崇嗣さんの後ろにいたマルを見て、あれっという表情を浮かべた後、「そいつは?」と訊ねる。 「誰でもない。俺の連れだ」 「ふうん、あんたに連れねえ……」  男がフードの下からマルの顔をのぞき込もうとするのを、崇嗣さんが止めた。 「それよりも仕事の話だ。そのためにきたんだろう?」 「おおっと。そうだった」  男はふざけた口調で両手を上げると、マルから身を引いた。崇嗣さんから渡されたUSBメモリーを手元の端末に読み込み、中身を確認する。 「それにしてもさすがだな。あんたほどの凄腕ほかに見たことないぜ。……いや、そんなことないか? 何て言ったっけ、”T”だっけ? ありゃあもう都市伝説のたぐいだな。だけどあんたならひょっとして……」 「無駄口を叩いている暇があったら手を動かしたらどうなんだ」  崇嗣さんに注意されて、男は「おっかねえ」と肩を竦める。  何だろう……?  そのときマルは、男から微かな違和感を覚えていた。 「なぜ録音をしているのですか?」

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