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第25話

 マルの言葉に、崇嗣さんと男はぎょっとしたような顔をした。 「録音だって? 何の言いがかりだよ」  男は誤魔化すように笑うが、崇嗣さんの表情は厳しいままだ。どういうことだ、と促されて、マルは違和感の理由を述べる。 「微かですが、ノイズが聞こえます。おそらくはコートの右側……、そう、内ポケットに何か録音器具があります」  崇嗣さんは男の内ポケットに手を突っ込むと、小型のマイクロフォンを引き出した。 「俺をはめようとしたのか?」 「ち、違う、あんたをはめようだなんて……!」  地面に落としたマイクロフォンを踏み潰し、マルの手を掴んでその場から立ち去ろうとした崇嗣さんの後を、男は慌てたように追う。 「待ってくれ! ほんの出来心で、あんたをはめる気なんてなかったんだよ!」  崇嗣さんは足を止めると、男の真意をはかるように見た。男は慌ててぶ厚い封筒を取り出すと、崇嗣さんに渡した。 「二度目はないぞ」  崇嗣さんは男の胸に拳を当てると、マルの手を引いたままその場を去った。  家に着くなり、崇嗣さんは何かを警戒するように部屋のあちこちを調べると、やがて満足したように緊張を解いた。そのようすを、マルは玄関に立ったまま、じっと眺めていた。 「さっきの、どうやってわかった?」 「あの人から、ずっと微かなモーター音が聞こえていたんです。録音しているのだと気づいたら、なぜだろうと不思議に思いました」  新しいこの身体は、人間の耳には届かないような小さな音でも聞くことができる。 「そうか」  崇嗣さんはコートを脱ぐと、コンロの火をつけ、その上に薬缶を乗せた。ガリガリと音をさせながら、崇嗣さんがコーヒーミルで豆を挽いている。芳ばしい匂いが部屋中に満ちた。彼が何を考えているのかわからず、マルは不安が募った。 「あの」  勇気を出してマルが話しかけようとしたときだった。 「飲むか?」  崇嗣さんは自分のカップに口をつけると、もう片方のカップをマルに差し出した。  フードを外し、崇嗣さんに近づく。カップを両手で受け取ると、崇嗣さんは自分のカップを持ったまま、リビングのソファに腰を下ろした。ソファで丸くなっていたヴィオラが迷惑そうに片目を開けたが、再び目をつむった。 「約束を破って申し訳ありませんでした」

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