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第43話

「昔、うちに使役ロボットがいたのを覚えていませんか。PG12417型の初期モデルで、一般にはマルという愛称で呼ばれていたものです」 「いや。よく覚えていないな。使役ロボットは何体もいたはずだが……、そのロボットがどうした」 「マルは、胸のところにライトがついているんですが、それが感情に合わせて変化するんです」  虫や草花を見て、胸元のライトをぴろぴろと点滅させていたマルを思い出し、胸の中が温かくなる。 「もちろん最初からプログラミングされたもので、子ども騙しのようなものだ、本物じゃない、俺はそう思っていました……」  崇嗣がロボットのプログラミングを始めたのは三歳のころだ。最初はただのお遊びで、その意味すらわかってはいなかった。自分が何かを発明するたびに、祖父が喜んでくれるのがうれしかった。けれどいつからだろう、崇嗣の発明を誰よりも喜んでくれたはずの祖父が、暗い目をするようになったのは。 「あるとき、そのロボットが室内に紛れ込んだてんとう虫を外に逃がしているのを、偶然見かけました。胸のライトがうれしそうに点滅していて、かわいらしかった。それからもときどきそのロボットを見かけることがありました。そいつはいつも楽しそうで、俺にはロボットに感情がないなんて思えなくなった。一度そう考えたら、俺は、自分のしていることに疑問を持つようになりました」  たとえどんなに理不尽でひどい扱いをされたとしても、ロボットは人間とは違う、ただの便利な道具でしかない。壊れたら新しいものと交換するだけ。使う側と、使われる側、その関係性は何があろうと変わることはない。子どものころ、遊びの一環として、崇嗣がその技術を生み出してしまったから。 「ロボットに感情はない、それは俺たち人間が作り出したただの幻想です」  なぜならそのほうが人間にとって都合がいいからだ。誰だって使い捨てにしている道具に心があるなんて考えたくない。心を痛めたくない。 「彼らにも感情はある。ただ、表現する術を持たないだけです。深い意識下に封じ込まれて、心の奥では俺たちと同じようにさまざまなことを感じたり考えたりしているのに、それをないものとして扱われている。俺はそのことに気づいていたくせに、すべてを変える勇気が持てなかった……」  人の世界はすでに便利さを覚えてしまい、なかったころに戻すことはもはや不可能だった。崇嗣の実家も、またそれで富を得た。 「だからあのとき、俺は何も見ないふりをしました。自分たちがやっていることは正しいことだと思えないくせに、それをすべて他人のせいにして、自分には関係ないことだ、自分は子どもだから知らなかったのだと言い訳をして、俺は逃げたんです」  初めてうちにきたとき、まるで雛鳥のように自分の姿を目で追っていたマルの姿を思い出す。キスをするとき、その手がいつも縋りつくように自分のシャツを握っていたことに、愛しさを覚えていたこと。移動遊園地で、楽しそうに笑っていたマルの姿を。  中身を交換したと言われて、驚いた。正直戸惑いがまったくなかったとは言えない。それでも目の前の少年が、遠い昔に出会ったあの掃除ロボットだと告げられた瞬間、すべてのピースがはまるように、腑に落ちた気がした。そのときに感じたのは、嫌悪でも同情でもなく、紛れもない喜びだった。

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