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第25話 気持ちの整理
「瑞樹、話がみえない」
奏太の疑問もわかる、支離滅裂だと思う。結婚するという事実を先に決めて、相手はいない。これから相手を探している。誰でもいいとしか聞こえない。
「恋愛して瑞樹に好きな人ができたのだとばかり、その人と結婚するんだと思っていた」
「好きな人なんて、できるはず無いだろう!お前が出て行ってから恋愛なんて、二度とできるはずなんかない!」
八つ当たりだ。
「奏太が……奏太が俺を置いて出ていったあの日から、俺の時間は止まった。気持ちも凍ったままだ」
大きな声で、奏太を詰るように感情を吐き出しぶつけてしまう。
「ただいまって、何事もなかったように帰ってこられても俺には理解もできないし、そもそも俺がこの四年間どんな思いで生きてきたのか想像もつかないだろう」
一方的に奏太に感情をぶつけている自覚はある。それでも一旦溢れ出した思いは、とどまることを知らず流れ続ける。
自分の抱えていた感情が、こんなにもどす黒く汚い物だったのかと嫌になる。
情けなくて奏太も呆れているだろう、零れ落ちる自分の感情がコントロール出来ない。
「お前が……」
黙って聞いていた奏太の顔がだんだんと柔らかい表情になった、検討違いな怒りをぶつけられているというのに。
「瑞樹、俺、好きだと告白されてる気しかしないんだけれど、どうしたらいい?」
「え……」
「それだけ俺に向けてくれる感情があるのなら、最初に吐き出してくれれば良かったのに」
奏太はそばに寄ってくると俺の頬に手を伸ばしてきた。その手が触れた瞬間に怒りの感情が崩壊した。
「俺が……」
「もういいよ、瑞樹、もういい。ただいまって軽く帰ってきたつもりはなかったんだ。怖かった、本当に怖かったんだ。あれでも精一杯だったんだ」
奏太は一歩近寄る、空間が狭くなり酸素が足りなくなったような気がする。濃くなる空気に呼吸が追い付かず、距離を取ろうと後ずさりしてしまう。
壁にとんと、背中があたった。これ以上さがれない、息が止まる。自分がまるで呼吸を忘れてしまったかのようだ。
「瑞樹、ごめんね」
返す言葉さえ見つからない。奏太の腕の中に抱き込まれて氷のキューブに閉じ込められていた気持ちが溶けだしてしまった。
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