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『白柳望大の葛藤』第1話

「し、ら、や、な、ぎ、くーん」  部室に入ろうとしたとたん、背後から媚びるような声が聞こえ、俺はうんざりしながら振り返った。案の定、同じ新聞部の同級生、中川と橋本が、揉み手をせんばかりに近づいて来た。 「今日さあ、お前んち遊びに行っていい?」 「いや、悪いけど」  俺は、即座に断った。一人で調べたいことがある、ということもあるが、こいつらの目的が見え見えだからだ。二人がそれ以上何か言う前に、俺は先手を打った。 「明希(あき)なら、今日は留守だぞ」  とたんに二人が、がっくりとうなだれる。そう、こいつらのお目当ては、俺の双子の妹、明希なのだ。 「なあなあ、明希ちゃんて、彼氏はいないんだよな? 好きな奴とかいないのか?」  これでシャットアウトできたと思ったのに、中川はしつこく食い下がってきた。部室に入る俺を追ってくる。 「さあな」  俺は、素っ気なく答えた。本当は知っている。明希の恋する相手は、母さんの元同僚で今も友達の、稲本(いなもと)さんだ。俺にとっては、年の離れた兄貴みたいな存在だ。尊敬する先輩記者でもある。  ちなみに明希は隠しているつもりらしいが、俺の目は誤魔化せない。伊達に、腹の中から一緒だったわけじゃないんだ。  とはいえ、俺はこのことを、誰にも言うつもりはない。特に父さんには。目の中に入れても痛くない愛娘が、三十近く年上の、それも愛しい妻を争った元恋敵に惚れてる、なんて知ったら……。  三日は寝込む、と俺は予想している。考えただけで恐ろしい。俺の父親は、この国の総理大臣なのだ。そんなことになったら、国民の皆様にどれほどご迷惑をおかけすることか。  だから俺は、沈黙を貫いているのだ。我ながら、何て国に貢献しているんだろうと思う。

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