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第15話 折れた心
「助けて、銀様…。」
すごく悔しいけれど、巨大な赤毛のサルの圧倒的な力に屈して、俺は助けを求めることしかできない。
昔からそうだった。
俺は、自分の力ひとつで生きていかなければならないのに、いざと言う時には、必ず誰かを頼ってしまう。
雄吾や蒼士をいつも頼った。
今回は、頼りの二人が来てくれないって、もう分かってしまったから、俺は、浅ましくも、可能性が少しでもある銀様を頼ろうとしているのだろう。
俺はなんて狡猾で、卑劣で、嫌な奴なんだろう。
こんな俺なんか、このまま串焼きにされて喰われるのが妥当だろう。
「ウォーーーン。」
どこかで狼の遠吠えが聞こえた気がした。
「ふふ、やっぱり銀様も来てくれないか。」
俺は過ぎた痛みに耐えられなくて、意識が遠退く感覚に身を委ね、やっと目を閉じることができた。
* * *
目を覚ますと、そこは森の中だった。
目の前には背の高い木々が重なりあい、空が遠い。
全身が痛い。特に頬とお尻の間が痛くてずきずきしている。
目蓋の肉が邪魔しているのか、目がうまく開けられない。
「っ、ごほっ。」
声を出そうとしたら、むせてしまった。反射で咳をすると、身体がめっちゃ痛くて身悶える。
「ーーーっ!!。」
痛さに耐えていると、頬をぺロリと舐められた。
ビクッとして、跳ね起きた勢いのまま尻餅を付く。
そして、また激痛。尻餅の態勢も維持できず、草の上に倒れて痛さを逃がす。
痛くて目を瞑りたいけど、俺を舐めた犯人を確めたくて、目をこじ開けて確認する。
「っーー。」
そこにいたのは銀様だった。
俺は嬉しくて、銀様に抱きつこうとするけれど、痛みで身体が思うように動かない。
学習してくれ、俺!
銀様が立ち上がり、俺のところに来てくれた。
俺の頬をまたペロリと優しく舐める。
俺は、銀様の首に抱きつくと、泣いてしまった。
鼻水も出たけれど、銀様は俺が泣いている間、静かにそこにいてくれた。
* * *
俺はさ、どうやって助かったのか分からないけれどさ。助かるよりも、死を選ぶ武士の気持ちが分かったかもしれない。いや、ちょっとずれているけれど、助かっても死ぬほど恥ずかしいって事態は起こるものなんだな。
銀様が犬で本当に良かった。
俺ってば、良い大人が下半身剥き出しで、野犬に泣いてすがってしまった。
思い返すと、顔から火が出そうだ。なんて情けない…。穴があったら入って、蓋をしたい。
俺の脱がされた服は、そこら辺に落ちていたのですぐに着たのは言うまでもない。
俺のバックパックとキャップとヘッドライトも近くに置いてあって、もしかしたら、銀様が拾ってくれたのかもしれない。
それにしても、あの巨大なサルはどこに行ったんだろう。
周囲を見ると、木や茂みに何かが擦れてできた傷跡や焦げているところもある。大木が根本で折れていたり、縦に割れて折れていたり…。
ハリケーンの跡みたい。何があったのだろう?。
これから先、どうしよう。
時計の針は午後15時を回ったところ。
すぐに暗くなってしまうだろう。
あの赤毛のサルが戻ってくるかもしれないから、桜の巨木に戻るのが良いと思うけれど。
車の中も安全とは言えなくなってしまった。あのサルには捕まってしまうだろう。
あのサルが怖い…。
「グルルル。」
銀様が俺の頬を舐める。
「ん。」
慰めようとしてくれる銀様にうまく笑顔を返せただろうか。
俺の心は探検2日目にして、ポッキリと折れてしまった。
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