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第5話 黒髪の神子

 ユウ君は優一郎君と言う、二十歳の大学生の正真正銘の男子だった。  少し前に東の国に召喚されて、番契約を拒んだら番候補者に無理やり番にされ、監禁されていたらしい。  そこに現れたのがユージーン達の盗賊団で、優君を助けだして、砂の宮の大賢者様に番契約を無効にする方法を教えてもらうために旅をしているんだって。  薬を飲まされて、訳が分からなくなったところでうなじを噛まれた優君。  そんなひどい話あるものか。  そもそも、そんな薬で契約が成立するなら、今まで召喚されていた神子達は?。オルさんが言っていたように、本当に仲睦まじくこの世界で幸せに暮らしているのだろうか?  * * *  「僕、どうしても番のテドール様が好きになれなくて。その……、男同士なんて、考えたこともなかったし。  でも、ユージーンに出会った時は、胸が高鳴って、僕、ユージーンと一緒に居たくて…。  その……、海里さんには気持ちの悪い話かも知れないけれど…。僕は男の人が好きなんじゃなくて、ユージーンだから、その…、好きなんだ。」 「分かるよ、優君の気持ち。俺もそうだよ。」  俺たちは月明かりを頼りに夜明けまで走った。  さすがにケーモルも疲れてきた様子で、俺たちは遠目に遺跡のような場所を見つけて、そこに身を寄せていた。  俺たちが乗っていたのはユージーン専用のケーモルだったようで、偶然にも俺の取り上げられたバックパックが荷物の中に入っていて、俺たちは携帯食を分けて食べていた。 「でも、ライアンさんが、僕たちの居場所がテドール様に知られてしまったって言っていて。ユージーンは海里さんが魔法を使って知らせたからだって怒っていて。僕とテドール様が番だから、そこをたどられたんだと思うし、海里さんは関係ないって、僕がいくらいっても聞いてくれないし。」  優君の大きな目にみるみる涙がたまる。 「それに、テドール様に追い付かれたら、またユージーンは無茶をするんだ。盗賊団のみんなも無事では済まないんだ。あの時は雄吾さんと蒼士さんが来てくれたから、何とか助かったけれど。」  え? 「ちょっ、ちょっと待った。雄吾と蒼士に会ってるの?。  あっ、母さんが言っていたのって、優君のことだったのか!。」 「え?。海里さんは、雄吾さん達のこと知ってるの?。」 「知っているもなにも、俺の大親友達だよ。  こっちの世界にいるって聞いてたけれど、まさか優君と知りあっていたなんてな。」  その時、ふわんと匂いがしてきた。  その匂いを意識したとたん、ドクンと心臓が脈打つ。やばいっ。番候補が近くにいるんだ。  もしかして、テドールって人か? 「優君ごめん、俺、番候補者が苦手な体質なんだ。誰か近づいて…、優君?。」  見ると、優君が震えている。 「あ。あ、あ、あ…。」  やばい、ビンゴか。  優君は俺と同じように身体が火照ってきているのだろう。顔は蒼白なのに、目元は潤み、吐く息が早い。 「優君、こっちだ、とりあえず逃げよう。」  俺たちは遺跡であらかじめ見つけていた、地下への入り口に入っていった。  中は暗い。俺はヘッドライトをつけて、優君の腕を掴んで走る。  とりあえず匂いのしない奥まで逃げなければ。  地下に下りたおかげでか、匂いはすぐになくなったけれど、たぶん俺たちがここに入ったことはばれている。  行けるところまで行くしかない。  地下の通路はやがて、地下水路へと変わり、水の流れに沿って俺たちは奥へ奥へと急いだ。  地下水路は明らかに人の手が入っていて、うまく明かり取りがされているのか、薄暗いけれど、ライトがなくても動く分には支障がない程度の明るさだった。  砂漠の下にこんなに水が流れているなんて。  誰かが作ったのなら、どこかに通じているはずだ。  優君の事情を聞いた限りは、優君はユージーンさんのところにいた方が安全なような気がする。てか、逃げちゃダメだっただろう。俺だってそれくらいは分かる。  優君が捕まる方が、ユージーンさんにとっては断然不利だ。  やばいなぁ、俺。これはきっと蒼士からしたら余分な手間をかけさせた案件で、めっちゃ怒られるパターンだぞ。  はやく脱出して、ユージーンさんと合流しなくては。  走っているい間に、水路は消え、迷路みたいな道をひたすら走る。  誰だこんなところに地下迷宮みたいなのを作った奴は。 「はっ、はっ、はっ、あ、海里さん、もう、僕、走れない…。」  俺たちは立ち止まり、音に耳を傾けた。  水の流れる音も、走る人の音も聞こえない。  諦めたか?  まさか、ね。 「こんなところまで、ご苦労様ですね。迎えに来ましたよ。」  え?。  ど、どこから声が??。臭わないぞっ。 「ひっ、やややっいやーーーっ!。」  優君がパニックになって叫ぶ。 「だ、大丈夫だよっ、声だけだ。きっと魔法で声だけ聞かせているんだよ。落ち着いてっ。」 「ほう、誰か一緒ですね?。わが神子をかどわかす輩は、私が直々に始末してやりましょう。これも番の役目でしょうね。一緒につれてきなさい。」  テドールのことばが消えると、目の前に無数の白い糸が迫ってきた。  なんだ?と思ったら白い糸は俺と優君の身体に振り掛けられて、だんだん巻き付くように四方八方から、吹き付けられた。  ちょっと力を入れても切れず、俺たちは簀巻きよろしく巻き上げられ、バランスを崩して倒れてしまった。  と、そのまま地面を引きずられて、凄い速さでもと来た道へと逆走して引っ張られていく。  糸で巻かれた部分は痛く無いけれど、はみ出している場所は、地面にぶつかってめっちゃ痛いんだけどっ。  俺は頭を持ち上げて、頭が擦られないように防御できるけれど、優君はパニック状態で顔や頭をぶつけても気にならないのか、されるがままに引きずられている。  そんなことしたら大怪我を負ってしまうぞ。  俺は魔力を練って慣れない風を操り、優君の頭を防御することで精一杯だった。  俺たちはやがて、水路沿いの道の、一角に到着した。 「ん、はっ。やっ、はっ…。」  優君の辛そうな息づかいが聞こえる。  そこには、黄緑色のゆるい巻き毛の男の人が立っていた。冷たい眼差しと寝不足のような目の下のクマが、よりこの人の印象を悪いものにしていく。  俺は、少し前からこの人の臭いにあてられて、発情させられていたし、優君の表情はここからは見えないのだけれど、多分、俺と同じで発情させられているんだろう。  悔しい、優君を苦しめるような酷い奴なのに、熱くなってしまう自分が嫌いだ。 「くくく。不出来な海老で鯛が釣れるとは、神子これの始末に来たのに、これでは褒美をあげなくてはいけませんね。」  何を言っているのかよく分からないけれど、ろくでもないことだと言うことだけは分かるから、不思議だ。

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