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第7話 反撃
『本当に良いのかの?。』
俺がクモに力をぶつけようとした時、頭の中に、お爺さんの声が響いた。聞き覚えのない声。誰だ?
「誰??。」
『ほう、まだ声が聞けるか。えらいの。』
周囲を見回しても、それらしい人はいない。
「誰?。どこ?。」
『ほれほれ、あの可哀想な神子を助けたいのじゃろ?。』
「そうですよ。助けてくださいっ。」
『ワシは助けられんよ。助けたいのはお前じゃろう?』
「俺でも助けられますか?。」
『かもしれんの。』
「かもかよ。どうすれば良いですか?。」
『冷静に、心を静めよ。』
「ムリですよ、優君が死んじゃう。」
『諦めたら、死んじゃうわな。』
「もーっ。」
『ほほ、牛じゃな。』
「うるさいですよっ。」
れ、冷静冷静、深呼吸、冷静、深呼吸。
俺は深呼吸を繰り返す。赤かった視界の色がとれ、音が入ってくる。
グポグポと鳴る抽挿音。ヒューヒュー言う優君の呼吸。パンパン鳴る肉の音。
『ほれ今じゃ、あの外道を宙づりにしてしまえ。』
俺はお爺さん?の言う通りのことを実行しようと、テドールを宙づりするにはどうするかな?と、宙づりにする様をイメージした。そのとたん、テドールが優君から離れて宙づりになっている。
「え?。」
俺は、自分でも今起こっていることが信じられない。俺、まだなんの力も使ってないよ?。
『ほれ、魔法を練られるぞ。魔力を抜いてやれ。』
「魔力って抜けるんですか?。」
『抜けるぞ、おまえさんの手でかき出すイメージじゃな』
そんなんで良いの??。
俺は、テドールに向かって手をかざしてみる。すると、おなかのあたりに黒いモヤモヤが見えた。それを手ですくい取るような動作をしてみる。
とたんにテドールの顔が蒼白になる。
「すげー。お爺さん、俺できちゃったみたい。」
『ほっほっほっ。さすがじゃのう。でも、力で反撃されたらかなわんの、手足を動けないように固定せんとな。』
「あ、そっか。」
宙づり状態だっていつ解除されるか俺も分からないからね。とりあえず、手足を固定して…。
おお!テドールが手と足をこちらに差し出してきたぞ。
俺は、バックパックからタオルとロープを取り出して、奴の手と足を固く縛り、猿ぐつわを噛ませた。奴は悔しそうな顔で、宙づりのままだ。ざまあみろだ。
さて、クモ達をどうしよう…。
そう言えば、俺がテドールにあれこれしている間も攻撃してこなかったな。命令されていないと動けないのかな?
「なぁ。おまえ達って、魔物なのかな?。俺は優君を助けたいんだ。この大馬鹿野郎はとりあえず返せないけれど、おまえ達は自分のおうちに帰れるんなら帰ってくれないかな?。後でこの大馬鹿野郎に怒られないように言っておくからさ。」
クモ達に俺のことばが通じるかも分からないけれど、クモ達はなにやら相談を始めた。
遠くからは分からなかったけれど、このクモ、足が8本以上ある。俺、昔からクモって苦手なんだけどさ、みんなで相談を始めたクモ達はちょっとかわいいなぁって思っちゃったよ。
『おまえさんの血を少し拡散してかけてやれば良いぞ。こやつらは契約に縛られているからの、解除してやれば自由じゃ。おまえさん達に敵意もなさそうじゃしな。』
「そっか。俺、血を流すのも得意じゃないけれど、こいつらのために頑張るかな。」
俺はバックパックからナイフを取り出すと、左腕にナイフをあてる。
う…。痛いのや血が出るの嫌い。腰が引ける。
が、がんばれ、俺!。
結果、俺の頑張りは実を結んで、クモ達は帰ってくれた。でも、一匹だけ帰らない奴がいて、俺の側から離れようとしない。踏んじゃいそうなんだけど…。
「おまえ、帰らないのか?。もう自由だよ。好きなところに行って良いんだよ?。」
『ほほ、好きなところが、おまえさんのところなんじゃろう。』
えー。まぁ、良いけれど、踏まれないように、ちゃんと避けてね?。
そんなことよりも、優君に服を着せてあげなきゃ。
俺は、バックパックから回復薬とウエットティッシュを取り出す。
『ほっほっほっ、そんなまずいものより、おまえさんの癒しの力を使ってやりなされ。』
「え、俺、そんなことできるんですか?」
『おまえさんは女神の子じゃろう?。できんでどうする。』
「そうなんですか?。でも、母さんできるんだな。すげー。」
優君を癒したい。その心も身体もいつまでも悲しみに囚われないように。
俺はそう願いながら優君に触れる。すると優君の体が光って、身体の汚れがなくなり、今も目を開けて静かに泣いている、その何の感情も写していない瞳が閉じて、安らかな寝息が聞こえるようになった。
『ほほっ、はじめてやるのに心まで癒せるのか。関心関心。だがちいと魔力を使わせ過ぎてしまったかの?。おまえさんにも後で褒美をやろうのぅ。』
「俺もビックリでした。心が癒せたかは分からないけれど、せめてゆっくり休んで欲しいと思って。お爺さんありがとう。俺、優君を助けてあげられて嬉しいです。」
『ほっほっほっ。礼にはおよばんよ。今度、優君も連れてこちらに来なさい。待っておるよ。』
「はい、本当にありがとうございました。ところでお爺さんのところってどこですか。」
あれ?。おーい、お爺さん?。じーちゃーん??
応答なしかーい。
仕方なく、俺は自分と優君に服を着せて、優君を背負った。
そして宙に浮いたままのテドールに、ちょっと迷ったけれど、節操のないその汚い腰に、パンツだけははかしてやった。
武士の情けは無用だと思うけど、見苦しいからね。
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