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最終話
*
千春は去年の春に結婚したと雪斗は話した。
俺が渡した銀の指輪は、すぐに忘れ去られておもちゃ箱の片隅に入っていたらしい。
雪斗はそれを大切に持っていてくれて、俺のことを長い間探してくれていた。
「あの店に貴方が出入りしてるって分かった時、チャンスだと思ったんだ。 もしかしたら兄さんの代わりになれるんじゃないかって。 一度だけでいいから……」
だけど実際にそうなってみたら、怖くなったという訳か。
「馬鹿だな。慣れてるふりなんかして」
男同士で一生添い遂げるなんてあり得ないと思ってたけど、こんなに長い間想ってくれる人もいる。
手に握りしめたままだった銀の指輪をポケットに突っ込んで、
「新しい指輪買ってやる」
と、ボソッ呟くと、雪斗はフンッと鼻で笑う。
「なんだよ、嬉しくないのかよ」
「だって男同士じゃ結婚なんてできないんでしょ」
コイツ、本当ツンデレ。
婚姻届なんて、ただの紙切れ。
要は、相手とずっと一緒にいたいと思う気持ちだろ?
なんて、らしくもない事考えてる。
「雪斗、死ぬまで俺と一緒にいてくれるか?」
「……貴方がそう言うなら、いいけど?」
「おいおい、俺の最初で最後のプロポーズだぞ。 そっぽ向いて応えんなよ」
だけど、そんなところが可愛いと思ってしまった。
お前は、千春とは全然似てないよ。
だからきっと、あのまま行かせたくないと思ったんだ。
「こっち向けよ」
「嘘つき、最初じゃないじゃん」
ちっとも素直じゃない雪斗を抱き寄せて、尖らせている唇へ、恥ずかしくて言えない言葉の代わりにキスをした。
終
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