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ep.0
「最悪だ──」
コンビニの軒先で雨宿りしていた栗花落 真柴 は空になった栄養ドリンクをゴミ箱に投げ入れた。
会社を出たときは雨なんて降る気配もなかったのに──18時の定時を5時間過ぎた頃、いい加減頭が回らなくなって会社近くのコンビニ来たらこのザマだ──。
「最悪だ……」
耳に掛かっている伸びた髪は雨で次第に嫌な湿気を帯び始めていた。このままここにいたら終電も逃してしまうだろう。それだけは避けたいのに今の自分には雨の中を走る気力も体力も最早残っていない──。
中に戻ってビニール傘を買ったとしてもどうせまた他のコンビニで盗まれる。今まで数え切れないほど買ってはその度盗まれた。結局誰かのための傘になるならこれ以上買いたくない──。
悶々とした空気の中、ふいに声をかけられた。
「この傘譲ってあげようか?」
落とした視線の先には学生ズボンの裾から覗くローファーがあった。真柴はそこからゆっくりと視線をあげると想像通り年相応の男子高校生がにこやかな表情で立っていた──。ただ予想だにしなかったのは驚嘆すべきその美貌だろう。
「この傘、100円で譲ってあげるよ」
美貌の持ち主は学生服の白シャツに薄手の蛍光グリーンのナイロンパーカを羽織っている。シャツの上には夏の日差しで焼けた首筋と目鼻立ちがくっきりとした明らかに日本人離れした顔がついていた。
眉や睫毛が黄色がかった明るい茶色をしていたので派手な髪色は彼の地毛なんだとわかった。大きい目はカラコンなのだろうか、薄茶の縁に青とグレーが混ざったような虹彩の透き通った綺麗な色をしている。
美しい顔立ちに見惚れて真柴がぼんやりしていると、彼は真柴の手を取り無理矢理傘のハンドルを握らせた。
「じゃあ今日は大サービス、無料 ね!」
「えっ、あっ」
その時ようやく反応できた真柴だったが、彼は颯爽と夜の雨の中を走って姿を消してしまった──。
──彼は無料 で
傘と優しさをくれた──。
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