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第14話 荷物

◇◇◼️◇◇ さて、朔の目が目覚める前に、地下倉庫に連れて行ってしまいましょうね。 そんな時間も無いようだしね。 最後まで、グッスリ寝かせてあげらんなくて、本当に悪い。 僕はベッドに眠るTシャツ一枚のすやすやと安眠する朔を抱き合げ、奥のガレージスペースの扉に近付いた。 身体を持っているので、一瞬の内にドアノブをねじる。 開いた先、そこには家庭用立体駐車場が設置されており、実はその下には鉄扉が床に埋め込まれているのだ。 あるリモコンを棚から手に取り、ボタンを押すと、立体駐車場の鋼鉄の床が持ち上がり、その下にある鉄扉が姿を現す仕組みになっている。 ついでにガレージの棚に置いてある荷物運搬用のロープも手に取る。 そうさ、「朔」は「荷物」なんだから……。 朔の身体を担ぎながら地下を降りた。 中はワインセラーのようになっている。 窓は一切無い。 適当な床に朔を寝かせ、先程持ってきたロープで後ろ手に縛り、足も縛る。 「ん………」 縛られて体を揺らされたため、不自然な震動で起きたようだ。 「おっ早うー、朔」 「な、何…やってるの……?」 「んー?荷物縛り……だよっ、と」 「は?」 朔の目が急にはっきりしだし、部屋の環境と自分の状態を識覚 コンシアスネスし始めた。 「お、俺は……、荷物じゃないよ…、正夜……」 朔、君の見聞覚知で一生懸命考えてみるといいさ。君が最初から今まで、僕にどんな視線で眺められ、扱われていたかを。 「朔、そろそろ出荷だな」 僕は切り出した。 「正……夜?」 縛ったロープに緩みがないか触ってチェックしながら喋る。 「朔のお父さんは偉い企業の役員だろ。実はその企業ね、俺の組織の銃器製造や薬物製造諸々と関与してるんだ。そのウチに対してね、君のお父さんは非常に不味い離反行為をしたワケよ。だから僕が送り込まれたワケよ。君達平和なご一家にね」 「な、なん、なん、だ、それ……」 一気に流し込む様に僕が喋る内容に信じられないのも無理は無く、非日常な話だ。 「役員の息子を、拐って、調教して、人身売買シンジケートに流すようにってね。つまり君を行方不明にさせるようにってね。それが君のお父さんへの、僕の組織が下した懲罰制裁勧告なんだ」 「何言ってるのか、全然わかんない………」 僕は朔と出会ってから何度この怯れの顔を目にしただろうか。 「サヨナラ、朔。君は君を買ってくれた人の元で、僕が教えたように、僕にしたように甘えればいい」 ◇◇◼️◇◇ 何を言ってるんだ、本当こいつは。一体全体、何を…………。 ここは眠る前に俺達がいた部屋と完全に光の構造も空気も違っている。 あの倉庫と様変わりした空間。 光が人工しかない。窓が一切見当たらない。ということは、ここは、地下…………? 「落ち着け、落ち着けよ、正夜……」声が震える。 「落ち着くのは朔だよ」 跪いてロープを触っていた正夜はすっくと立ち上がる。 話から分かる断片的にイメージ付くことは 「とある闇の組織」の「調教師」だってことか?16歳の高校生、正夜が? 「…お……俺はお前を、愛してるんだよ?」正夜の反応を確認する様に問いかけてみるも。 「…………」 顔色を変えず正夜は立ち上がって、俺を顧みずどこかへ階段を上がり去っていった。 ……なんなんだよ。 じゃあなんだったんだよ!昨日の愛してるは!?好きは!?涙は!? 訳分からない!!!本当、訳分からない!!!あいつは、おかしい!!!!狂ってんだ、きっと!!!! 悔しい……。悔しい……!あれ程泣かされまくった涙がまた滲む。 滲む涙は縛られて拭えない。 何でだ……何で俺がこんな目に遭うんだ……? また泣いていた、俺は。 ここに来てから、いや、正夜と会ってから、ずっと泣きっ放しだ、頭が痛い。 色々あり過ぎる。 色々有り過ぎる。 もう身が保たないや。 ………………地下の暗闇の中で俺は思考停止をし、何もかも手放し、目の前を見ないようにした。 考えるのを一切やめ、楽になりたかったからだ。 暗闇の中に自分を失くせばいっそこれが夢なのではないかと…………。 カツ、カツ、カツ。 暫くすると、足音が複数分聞こえた。 睨む。階段を降りてきたのは正夜と、それから後ろに、ボディガードのように頑強な体格の、紺のスーツにサングラスの男が現れた。 「お迎えが来たよ」 正夜は手に持っているテープの輪をピッと剥がした。 口を塞ぐつもりだ。 「お、俺は売られるの?」 「そうだよ」 近づいて来る。 何を言えばいい。何を言えばいいんだ、この瞬間。何を言えばこの事態は打破されるんだ。俺の頭が目まぐるしく回転し、血が周り急稼働する。だめだ!良い案は浮かばない! とっさに口をついて出た言葉はこれだった。 「正夜、最後に俺に、恋人同士のキスをしてほしい……出来るだけ…長くで頼むぜ……。大切に、大切に、キスしてくれよ。ずっと思い出して生きていけるように……!売られても、どんな辛い目や怖い目に遭っても、ずっとおまえとのキスを心に思い描いて、生きていけるように……!」 正夜の顔色が微動だに……しなくはなかった。 微動だにした。確かに、した。 微かだが顔色がはっと変わった。絶対だ。 「……舌噛んだりしないでよ」 指先がかけられ、スーツの屈強な男が見ている目の前で、俺達の唇は合わせられた。 そうだ、正夜はこのような俺の願いは、いつもちゃんと聞き届けて、叶えようとしてくれる男だ。 抱き締めさせてと願ったら、ちゃんと抱き締めさせてくれ キスしてくれと願ったら、ちゃんとキスしてくれる ……性格の男だ。 瞼を閉じ、本当に長い時間、大事に、大事にキスをしてくれた。 「サヨナラ、朔」 唇を離すと、交代にテープを口に貼られ、俺は何も喋れなく、正夜に何の言葉も投げかけられなくなってしまった。

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