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第15話 After the tempest
◇◇◼️◇◇
朔はエイデン・アセンシオ……あのサングラスの男……に連れられて部屋を出て行った。
僕達がいつも使っていた出入り口とは違う、地下直結の通用口がある。
真上に車が停めてあり、誰にも見られないように、彼は運ばれていく筈だ。
一仕事、終えたのだ。完了させた。
僕はすぐさま、朔の存在は頭の隅に蔵しまいこみ、果てしなく膨大なコンピュータ言語の波、いや壁、と向き合わなくてはならなかった。
地下を上がりマシンルームの椅子に腰を落とす。
運ばれた彼が例のものを見つけた部屋だ。
あのDVDの中身の児童売春は、僕らの組織の末葉の生業でしかなく、行っている組織犯罪の種類は大規模多岐に渡る。
僕はいつの間にか食い潰されるサイドではなく、食い潰すサイドにまわっていた。
何故PCと向き合い悩まされているか。
僕にはアクセスしたい強大な障壁があった。
自らの属する組織のデータ・システムにクラッキングしようとしている。どれだけ頭の中でシュミレートを重ねても、結果は悲惨だった。
挑むには難敵だ。
僕は、国家レベルをも上回る情報セキュリティシステムを相手にしようとしている。
「ヘルタ」
「ボルシア」
「ゾナー」
と名付けられているそれぞれの情報セキュリティシステムが複雑に相互干渉しあって、どんなハッカーの攻撃をも微細に感知、即時の反転攻勢を取られてしまう。
それでも、「DESディー・イー・エス86」という極深層のデータ・エリアにまで行き着きたい。
僕は!
何故なら僕の組み込まれた凶なる組織は大いなるヘッド・オブ・ステイトと関わりがあるからさ…………。
そこまで深層のエリアに潜り込めば、きっと全てが明らかになるものを手中に出来る!
僕が最後までやり遂げられる見込みパーセンテージを算出しようとしたら、それは、とても、非道く、悪い数字だ。
けれども僕はやらずには置かれない。
爆弾をこの手に持って、連中の頂上へと、撃ち込まずにはいられない!
システムに侵入したことは99.9%の確率で網に引っかかってバレる。
そうなったら「ちょっとイタズラしてみました」な言い訳では済まされない筈だ。
尋問も飛ばして、即刻、 溶かされる 筈だね。
この世に髪の毛一本も残らぬ様、死んだことさえ判明せぬ様、跡形も無く。
いいや、恐らく、朔の未来の姿や、男娼程度の悲惨さなんかより、もっと辛い地獄を味合わされて惨たらしく殺される未来だ。知っている。
朔……
朔か。
頭では片隅に追い払おうとしているのに、不意に胸を翻った。
だけれども、裏切って、朔一人を助けたところで何になる。僕が一人この世の何処からも消されるだけで、また新たに人は連れさられるし、誰かは朔と同じ目に必ず遭う。
連綿と続く連鎖には余りにも無抵抗な僅かなる当座逃れだ、バマーなアイデアだ。何にもならない。
僕は一人で挑まなければならない巨大な氷山がある。
朔一人を踏み越えて、僕は歩まなけりゃならない。
あのDVDは正しく僕の宝物だ。
憎悪をずっとこの胸に生かし続け
記憶の彼方に封じ込めないためのね。
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