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第17話 微動

まず、三重複するセキュリティシステムを検知されず突破するには、僕の手一本だけでは物理的に不可能だ。 自律学習・予測・攻撃可能のAIによる自動クラッキングシステムが他にも必要だった。 ただそれをやるには理論上、スパコンのような大規模コンピュータが必要だ。 僕がそんなものを用意できるまで後何年かかるだろうか?億に0がまだまだつくぜ。 高性能かつ高精度な、次元を画する処理、1000種以上の多方向分岐処理を一度に行えなきゃならない。 そうやって、多重分岐を一度に一箇所集約し、セキュリティへの侵入攻撃を図り、侵入を検知するシステムを秒で完全停止させるしかない。 そうでなければ、侵入出来たとして、必ず検知され、一瞬にして逆探知を返される。 セキュリティシステムを管理しているチームは表向き企業の体裁を取っている。 バイナリテクノロジェックス社……。 そんなもんに挑もうだなんて、果てしなく馬鹿馬鹿しくなってくる……。そのために、あの僕の過去を詰めたDVDを、潰さずに残存させていた。 逃げようと僕が怯む時、いつでも脳裏に火を点けられるように。 僕はデスクトップを落とし、同時に開いていたラップトップも終了させると、黒のヴァイナルビニール地の上着を手に取り着替えた。 つまりあれだった。 自分の命と引き換えに爆弾を落とすか、 それとも行わないかの二択を、現在の僕は選ぼうとしていた。 行えば欲しいものは手に入るが、99.9%僕は検知され抹殺される。 もしかしたら死ぬことも出来ず、延々苦しいだけの生き地獄処置に落とされるかもしれない。 それとも未来まで機をのんびりと待つか。 いつか、何とか、なるさ、って……。 音量をオフにした携帯電話機の画面が点滅発光する。 着信表示名、エイデン・アセンシオからの電話だった。 「エイドか。もしもし、何だよ」 「一之宮君、上層部から君の仕上がり品について「即時的な対応を求める」とのお達しだ」 「……はぁ?」 受話スピーカーから飛び込んできた内容は完全に不可解だ。 かなり低く、内側にこもった男の声が、携帯のスピーカー口から流れていく。 「……朔か?」 眉と声を顰めた。 「殺処分命令だと言うことだ」 「!?」携帯を持つ手が、硬くなる。 「な……何で、おい、それは」 「監視員の指を噛みちぎった。散々暴れた。何がどんな人間のペットにでもなれるよう調教した、だ。調教未完了のまま納品したな、とお冠だ」 「……あんたら、無理な行為をしたんじゃないだろうな?……無理に乱暴な性交を」 「さぁな。でも運んでいく前、車の中で一度犯したが。お前達のキスを見て、俺の欲情もくすぐられたんでね」 「…………ウッ!」 携帯を持つ指先が冷える。 「俺とお前で、シメなきゃならなくなったな」 こいつ……。通話相手は笑い、露骨に残忍な感情を声色に出して言い放った。 「………僕は人を殺したことはない」 「じゃあ身につける良い機会だな」 通話終了音が手元で鳴っているようだが、耳に入らない。 僕が、殺す、……だって?朔、を…………。

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