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【どんなに美しい宝石よりも、欲しいのはその言葉。】 (あぁ、また落ちてる) 目覚めると、枕元にポロポロ落ちてる煌びやかな宝石たち。 僕は、何やら奇妙な病気にかかってるらしい。 喉から宝石がポロリと溢れる度、言葉を一つずつ忘れていく可笑しいもの。 治し方はまだ解ってない。 (1、2、3、4、5つ……) ということは、僕は今日も5つの言葉を忘れてしまった。 今度は何を忘れたんだろう? なんて、考えても分からないんだけどさ。 (どうか、あの人とのことじゃありませんように) 思い浮かべるのは、たった1人の大切な人。 コンコンッ 「こんにちは。起きてる?」 カラリと病室の扉を開けたのは、丁度今思い浮かべてた人物。 「正文(まさふみ)さん」 「こんにちは、詩音(しおん)。いい天気だね」 いつものように優しく微笑みながら、近くの椅子に腰かけてくれた。 「わぁ、今日も綺麗な宝石が出てきたな。これはなんの言葉だったんだろう?」 「クスクスッ、なんでしょうね」 「うーん…緑色に黄色に…これは白色かな? カラフルだなぁ」 手渡すと正文さんは直ぐにカバンから宝石がいっぱい入ってる瓶を取り出して、丁寧に入れる。 「わぁ、もうすぐこの瓶も満杯だ…これで何本目でしたっけ」 「95本目だよ」 (95……) 僕は、もうそんなに沢山の言葉を忘れてしまっているのか。 「しーおん、顔をあげて」 「正文…さん……」 「大丈夫、きっと治るよ」 よしよしと頭を撫でてくれるその体温に、泣きそうになる。 「っ、どうして宝石なんでしょうね」 言葉を忘れる代償に宝石が出てくるなんて、ほんと皮肉だ。 「そうだなぁ。 きっと詩音が綺麗な言葉を沢山知ってるからだよ。だから神様がイタズラしちゃってるんだ」 「綺麗な言葉なんて、そんなの正文さんもいっぱい知ってるでしょう?」 「ふふふ、そうかもしれないね。でも詩音のは特別。あんなにたくさん本を読んでたんだから」 「……宝石、売らないの…?」 「誰が売るか。これは全部詩音の一部なんだから、要するに全部俺のなんだよ。だからね、全部独り占めする」 「ーーっ、あははっ」 ニヤリと微笑むその顔に、思わず吹き出してしまって。 (そうやってあなたは、いつでも僕を励ましてくれるんだ) 優しくて、暖かくて、大好きで 世界で一番大切な……僕の〝恋人〟。

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