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暁光エンドⅡ2おまけ①
「あ、向原。ちょっと待って」
生徒会室を出て行こうとしていたのを呼び止めると、当人だけではなく隣にいた篠原も一緒に振り返った。その篠原が、「お」という顔になる。
「いや、たいしたことじゃ」
「俺、外で待ってるわ」
ないから、と続けるはずだった台詞は、がんばれよと言わんばかりの笑顔と、扉を閉める音に取って代わられてしまった。
――絶対、誤解してる……。
誤解というよりは、期待かもしれないが。どちらにしても、期待したことが起こらなかったと知れば、「おまえが悪いに決まってるんだから、とりあえずでもいいから謝れよ、マジで」くらいのことは言われるにちがいない。
篠原にかかると、悪いのはいつも自分だ。今回に限って言えば、否定するつもりはないけれど。
「なに」
「返すの忘れてたから」
面倒くさそうに近づいてきた向原に、取り繕ってデスクの引き出しを開ける。一番上。篠原に小言とともに渡されてから入ったままになっていた、生徒会所属の印の記章。
「あぁ、それか」
すっかり忘れていたというふうな反応は、いかにもらしかった。向原は、基本的になにごとにもこだわらない。
「向原?」
金色の記章を手のひらに乗せたまま、首を傾げる。一向に手が伸びてくる気配がなかったからだ。
いらないって言われても困るんだけどなと勝手なことを考えているうちに、ブレザーの紺地が目前に広がる。視線を上げると、いつもと変わらない顔と目が合った。その瞳がにこりとほほえむ。あまり良い予感はしなかった。
「向原」
「はい」
はいって、なんだよ、と思ったのに言えなかったのは、ものすごく既視感があったからだった。
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