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夜明け前①
格好いい人の周囲には、格好いい人しかいないのだろうか。
それとも、二年後には自分も進学することになる陵学園とやらには、噂通り優秀なアルファしかいないのかもしれない。
「皓太?」
そんなことを考えていたら、訝しげな調子で名前を呼ばれてしまった。はっとして顔を取り繕ったが、後の祭りだった。
「珍しいな、皓太が物怖じするの」
「いや、……」
ちょっと、あまりにもインパクトがあったので、とも言えない。どうせ、この人たちに行ったところで通じるわけがないのだ。
「そりゃ、向原の顔が怖いからだろ、かわいそうに」
からかうような台詞に、向原と呼ばれた人がふっと笑った。
「祥平が甘やかしてるから、そうなってんだろ」
「正解」
皓太がむっとする間もなく、近づいてきた幼馴染みの手がくしゃりと髪の毛を撫ぜていく。彼が全寮制の学校に行ってしまってかれは会う機会が長期休暇だけになっていたから、こんなふうに触れられることも随分とひさしぶりだった。
「昔からかわいがってるんだ、俺が。弟みたいなもんだから。な?」
「……うん」
「おいで」
ためらいがちに頷くと、招く手が目の前に現れた。大きな手に手のひらを重ねる。温かなぬくもりに、ほっとした。
その手がある限り、自分が迷うことはない。そう、思っていた。
だって、自分に伸ばされる優しい手は、皓太にとって物心ついたころからずっとそばにあったものだったのだ。
当たり前のように、いつも皓太の歩く道の前にいた人。皓太の導となってくれていた人。
だから、ずっと大人なのだと思い込んで妄信していた。
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