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寝息を頂く幸福①

 夜の深い時間に、なぜか目が覚めてしまった。見慣れない室内に違和感を覚えたのは一瞬で、すぐに向原の別荘だったと思い出した。年上の幼馴染みにねだって、同行を許してもらったのだ。  確認した時計は、午前二時十六分を指している。  自分のベッドではないから、こんな時間に目が覚めてしまったのだろうか。知られたら、嬉々としてからかってきそうな人がいるなとは思ったものの、どうにも寝つけそうにない。  ふぅと小さく息を吐いて、ベッドから抜け出す。やってくる春が待ち遠しいせいか、つま先が少し冷たい感じがした。  リビングに明かりがついていることに気がついた足が、階下に向かう。さみしかったわけではないけれど、なんだか妙にすっきり目が冴えてしまったのだ。  灯台のような柔らかな明かりを目指して廊下を進む。たどり着いた先の扉をそっと押すと、一筋の光が薄暗い廊下に差し込んだ。  その隙間からこぼれた世界に、ぱちりと目を瞬かせる。広がっていたのは、どこか優しい暗闇だった。 「こんな時間に起き出したら、怒られるぞ」  向原の声が、自分は怒らないけれど、というていだったことに安心して、ゆっくり扉を押し開ける。  普段から声の大きい人ではないけれど、いつにも増してひそやかだった。その理由もわかっていて、だから、おのずと呼びかける声も小さいものになる。 「鼎くん」  音を立てないように扉を閉めて、ソファーのそばまで歩み寄る。珍しいもの見たなぁ、と思いながら。

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