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御礼小話②
「それに、俺に貸しがつくれる機会ってなかなかないと思うんだけど」
「それはそうかもしれんが」
強硬に反対するつもりもなかったので、溜息ひとつで茅野はそう請け負った。先ほど思っていたことと同じで、本当にべつに構わないのだ。
むしろ、それでこの問題児ふたりの夜遊びが減るのだとすれば、管理する側としては都合が良い。ただ――。
「気の合う合わないで言ったら、篠原のほうがよほど合うだろう。なにをそんなに変更したいんだ?」
「おもしろいから」
「おもしろい……、まぁ、おもしろいか」
言いたいことはわからないでもない。なにせ、突出したアルファのくせに「第二の性は関係ない」と言って憚らない潔癖すぎるほどの平等主義者だ。
とは言え、それだけが理由ではないと思うが。
……まぁ、聞くほうが野暮だな。
そう、茅野は思いきった。野暮だ。あるいは、聞いたこちらが馬鹿を見ることになる。理由はどうあれ、向原が成瀬を気に入っていることも、特別視していることも周知の事実で、だから誰も余計なちょっかいをかけようとしないのだ。
聡いようでいて妙なところで抜けている同級生が、どこまで承知しているのかは定かではないが。そっとしておいたほうが平和であることだけは疑いようがない。
「また柏木に恨まれそうだな、俺が」
成瀬と同じ部屋であった幸運を噛みしめている同級生の名前を出したのは嫌味だったのだが、向原に響いた様子はいっさいなかった。
「いまさらだろ。おまえ、デリカシーのかけらもないらしいから」
涼しい顔を恨みがましく見つめてから、茅野はひとつ大きく溜息を吐いた。
「そういう問題じゃない」
少なくとも、今回の件に関してだけは、絶対に。
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