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第30話 宿泊 Ⅺ〜side鷺沼〜

「…藤さん⁇」 小さな旋毛にチュッと口を寄せ抱きしめた 何も言ってくれないのは やっぱり青葉さんが好きだからなのかな… 「…あ…の…」 「はい⁇」 消え入りそうな声で藤さんが何かをゴニョゴニョと喋っているけど全く聞き取れなくて、仕方なく聞き返した 「…か…考えるから…ちょっと待って」 「え⁇」 それって…ダメでは無いって事⁇ 堪らなくなった俺はギューッと藤さんを抱き締めている腕に力を込めた 「痛ぇよ!! バカ!!」 パッと顔を上げた藤さんがもう下を向かないように後頭部をガッシリ掴むと、そのまま藤さんを問いただした 「考えるっていつまでですか!? 明日!? 明後日!? 来週!?  でも あれですよね!!  考えるって前向きに的な!!」 俺が早口で捲くし立てると、藤さんは何故かウンザリとした顔を向けてきた 「…やっぱ…今の無し…お前 嫌だ」 「ええ!? 何でですか!? ドコがですか!?」 俺が涙目で訴えると藤さんは盛大に溜息を吐いた 「…そういうトコ」 「う…」 俺がショボくれていると、藤さんが俺の頭をワシャワシャと撫でてきた 「…まだ…よく分かんねぇから…分かったら言う…じゃ…ダメか⁇」 藤さんは耳まで真っ赤にしながらそれは可愛らしい顔でそう言ってきて、俺はブンブンと首を大きく横に振った 「…藤さん キスしても良いですか⁇」 今まで散々してきたけど、藤さんから良いよっていう言葉が欲しくて敢えて訊いてみた 俺の言葉を受けた藤さんは斜め下の方を見た後、ギュッと目を瞑っていて これはオッケーって事なのかな⁇と勝手に解釈した俺は、顔を傾けて藤さんの柔らかい唇に触れた 今までと何も変わっていない筈なのに何故か全然違う様に感じて、胸の辺りが温かくなるのを感じた 「…藤さんってキスも俺が初めてなんですか⁇」 唇を離してそう尋ねると何故か思いっきり殴られた 「何で!? 理不尽!?」 「ウルセェ!! 馬鹿ミハ!! もう寝る!!」 それだけ言って布団に包まった藤さんをムーッと頬を膨らませて見つめた後、そろりと近付いて後ろから抱き締めた 腕を回して手を絡める様に握ると少しだけ握り返してくれて、胸の辺りに今まで感じた事の無い気持ちが込み上げてくる 「藤さん お休みなさい」 「…ん」 今までにない程満ち足りている心 今日はいつもよりグッスリ眠れそうです

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