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第8話

「それでいくら?」 「あ??? お前話聞いてた? 俺らはもうお前の言うことなんて聞かねぇんだよッ」 「今まで散々馬鹿にしやがってッ!」  やっぱりこれで押し通すのは無理があるかー。  男が二人、同時に殴りかかってきた。遅い。右に足を踏み出して避ける。  三人目がそこにタイミングよく蹴りを入れてきた。それを腕で受ける。 「ちょこまかとッ! 毎回毎回俺たちの獲物を横取りしやがってッ!」 「お金貰ってたじゃん?」 「金払うくらいなら娼館行けっつーんだよッ」  リーダー格の男が剣を抜く。それに続いて他の二人も槍と杖を構える。  剣と槍をここで使うのか。  あ、ちなみに僕は彼らの顔は知っていても名前を覚えていない。 「リーダー! こいつ娼館には通いまくりって噂っすよ」 「うっせぇ、そんなことは知ってんだよッ。お前は黙ってろッ」  そんなくだらない話を横目に僕は少しずつ自分の立ち位置をずらす。襲われて震えていた女性を守るような。  戦っているうちに攫われたりしたらたまったもんじゃない。 「とりあえず二人は俺に合わせて攻撃しろッ!」 「「ラジャー」」  剣士が一直線に剣を振り下ろしてくる。  それを短剣でそらす。  続いて槍を持った男が剣士の隙間を縫うように絶妙なタイミングで突きを放つ。  思ったよりもこいつら強いな。少しまずい。  とりあえず猫獣人女性は逃がさなくては。  男の突きを避ける。しかし体勢を崩してしまい、男の後ろから放たれた地属性魔術、ソールショットは避けきれない。  土塊の弾丸が僕をめがけて飛んでくる。  であれば、僕は前に出る。  左肩と左腹部、右足に先端のとがった土塊を受ける。  しかし、それを無視して足を踏み込み拳を勢いよく振り上げる。 「クッッハッ!」  的確にみぞおちを殴られた剣士は崩れ落ちる。  拳がピキリと痛んだ。  男たちが困惑して剣士の男のところに寄っているうちに、女性を守るために張っていた結界を解いて近づく。どうやらまだ震えているようだ。でもごめんね。それを気に掛ける余裕は今ないんだ。 「こいつらは僕が食い止めるので、早く逃げてください。大通りはこの路地をぬけて右の突き当たりをまっすぐです」 「……えっ?」 「早くッッッ!」  それだけ言い終えて、僕は体に刺さる土塊を抜き、男たちの方に向かう。まだうずくっている男は置いといて次は槍の男に蹴りを入れた。魔術師は僕が近づいてきたことに気づいていたようでその間に詠唱を終えていた。 「大地の精霊よ、我にその恵たる力を分け与えたまえ!」 《弾丸雨(ソールショット)》  先程と同じ、土塊が飛んでくる。 「……魔術師が邪魔だな」  猫獣人の女性は僕が槍の男を蹴っている間に逃げたようだ。よかった。これで自分に結界が張れる。  明日は村に行くついでに結界を補強したいから、あまり魔力を消費したくないんだけどな。  僕は魔術師に駆け出す。  視界の端に剣士が起き上がっているのが見えた。 「おらあっっっ!」  斬りかかってこられるが、結界を発動。 「あれっ、くそっ!」  剣士は結界を何度も斬りつける。  その間に、目の前の魔術師を一発、二発、三発殴る。 「も、やめっ……」  そして最後に蹴りで身体を吹き飛ばす。壁にぶつかり、身体が床に崩れ落ちる。気絶したようだ。  次に振り返って背後の剣士に蹴りを入れる。 「ぐあッッッ」 「前衛職なだけあって硬いね。でも、君たちはCランク。あれ? Bだったっけ? まあ、どっちでもいいや。勝てるわけないじゃん? バカなの?」 「こッッッのッッッ! 舐めやがってッ!」 「ハハッ、何言ってるの? 君たちが僕を舐めてるんでしょ?」  剣士は、一直線に攻撃を仕掛けてくる。長めの剣を使ってこんな路地で戦えばいやでも単調な行動にならざるおえない。  軽々と後ろにバックステップで回避し、男に拳を振るう。顔に連続で三回、顔を防御しようと腕を動かしたので、さっきと同じみぞおちに一回。そして前かがみになったところを後頭部に一回、蹴りを入れる。 「ふぅ……おっとっと……」 「貰ったッッッ」  蹴りの勢いが余って体勢を崩す。そこをいつの間にか起き上がっていた槍の男が突く。  クソッ。結界が間に合わない。  身体を捻り、回避行動を取るが、避けきれない。さっき土塊に刺された左腹部を槍が抉る。 「ア゛ッッッ!!!」  クソッ、油断したッ!  大丈夫。  大丈夫だ!  このくらいの痛みは、慣れてる。  怯みそうになる自分に言い聞かせる。  体勢を立て直し、男のすねを思いっきり蹴る。 「イッッッ……」  ひるんだところ、お腹を殴る。  顔も合わせて三発も殴れば、起き上がらなくなった。  魔術師や剣士の様子をちらりと見るが、ちゃんと気絶してるみたいだ。 「はぁ、終わった」  身体の力が抜ける。 「これで当分は刃向かってこなくなるといいなぁ」  いや無理か。今回は勝ったけど結構ギリギリだった。仲間を増やせば勝てると思われたかもしれない。  それに満身創痍だ。もう歩くのも億劫。  って、ああいやだ。また自分のことばっかり考えてる。まずは、襲われていた猫獣人女性の心配をしないといけないのに。 「早くさっきの子を追いかけよう」  そう思い、身体に鞭を打って路地をまっすぐに走る。  そして路地を出た。  その時ーー  右方向から剣が振り下ろされた。  ああ、今日は本当にツイてない。

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