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第16話

 朝起きて、家中を探し回った。 「どこにもいない……」  それどころか、いつも遠出する時に使う二人の装備一式もなくなっていた。  どこにいったんだ?  僕はいてもたってもいられず、家を飛び出した。  早朝。まだ人通りはほとんどない。  とにかく街中を走り回る。  まだ、街にいて欲しい! お願い!  店はまだ開店しておらず、辺境伯領一の街とはいえ、辺境の街だ。それほど時間はかからず、この街に二人がいないことは分かってしまった。  まだ、宿や知り合いの家にいるといった線も残ってはいるが、可能性は低いだろう。  というか、元々この街にいる可能性はほとんどなかった。  ただ、街の外にいるならもう探しようはない。だから、まだ街中にいる可能性をおった。  でも、街中に居ないからといって諦めるつもりはない。  僕は、外に向かうことにした。  街の門へ、最短距離の道を使う。あともう少しで門に辿り着く。そんな時に後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。 「ファイアさん! 耳!」  立ち止まり、振り返れば、昨日居酒屋で一緒になったルールーだった。 「耳?」 「耳、猫耳のままになってる」  僕は咄嗟に耳を手で隠した。  それを見て、ルールーは笑った。 「誰かに話したりしねぇって。とにかく隠しな」 「……分かった」 「朝早いとはいえ何人かには見られてるよなー。噂にならないといいけど」  なんでルールーが僕の心配をしてるんだ? 驚きもしないし。  ルールーって一体何者なんだ。 〈虚像改変〉  とにかくまずは、幻影魔術を使って猫耳を狼耳に変える。 「うお〜、幻術? すげぇ〜、しかも感触も本物ッ」 「ひゃあっ! ……んっ……やめっ……なん、で触って……」  物珍しさからか、ルールーは耳を触ってきた。大半の獣人にとって耳は音を拾う繊細な感覚器、つまり敏感な部分だ。  それにラックによれば、僕は耳を片方しか持っていないからか、人よりも感覚が敏感になっているらしい。  触られれば、身体から力が抜けてしまう。 「あっ、ごめん、つい好奇心……が……」  地面に座り込んだ僕を見たルールーが顔を真っ赤にした。  ん? おかしくないか? 恥ずかしいのは僕の方なんだけど?  いや、ルールーがおかしいのは最初からか。僕の耳を見ても驚かないし。 「とにかく、僕急いでるから」  と言って立ち上がり、ルールーに近づく。 「いやっ、近いっ近いっ」  なるべく睨みつけるように視線を鋭くし、ルールーを壁に押しやる。そして、彼の脇横を通って壁に手をつける。  身長は僕の方が小さいので、見上げる形になってしまっているが、イメージは「ほら、そこで跳んでみろよっ」とカモに脅しをかけるチンピラ冒険者だ。 「僕の耳のこと話したら、分かるよね?」  ルールーはこくこくと無言で頷いた。よかった。成功したみたいだ。  ルールーは開放された後、ふーっと息を吐き出し、顔を手で覆っていた。  何やってるんだろ?  怖かったのかな?  少し申し訳ないけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。 「耳のこと、教えてくれてありがとう! じゃあ僕行くから」  ルールーのことも、僕の耳がどのくらいの獣人に見られたのか、ということも気になるけど全部後回しだ。 「ちょっと待って」  走り出そうとすると、服を掴まれた。 「俺の話が終わってない」 「今、ルールーの話聞いてる時間ないんだけど?」 「ファイアさん、今、自分の奴隷探してんじゃねぇの?」  どうやら彼は、ラックとナリヤについて何か知っているようだ。

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