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第1話
小さい頃から当たり前のように隣にいた幼馴染の羽風 侑生 。中性的な顔立ちで柔らかい雰囲気の彼は、それでも極道の一家に産まれたので、現在進行形で極道をしている。
けれど俺の前ではそんな姿を見せない。時折怖い顔をしている時があるけれど、指摘をすればすぐにその顔は引っ込んだ。
同じ中学、同じ高校を卒業して、侑生は実家の仕事を、俺は大学に進学。
その時からルームシェアを始めた。
毎日同じ家で起きて、同じ家から出かけて、帰ってきて、眠る。
急に他人と一緒に暮らすとなるとストレスが溜まるだろうなと思っていたけれど、侑生との生活は苦を感じることが全くなかった。
「洸 ちゃん、起きて。」
「ん……」
頬にチュ、とキスをされる。
擽ったくて手で払うと、上に覆いかぶさってきた侑生がギュッと強く抱きしめてくる。
「起きないと遅刻しちゃうよ」
「うぅー……重い……」
そしていつの間にか、本当にいつの間にか、侑生とはキスをする仲になって、そうなればそこからは進展は早くて、関係は幼馴染だけでなく恋人も追加された。
「洸ちゃんの大好物、フレンチトースト作ったよ。」
「……食べる」
「じゃあ起きようね。はい。おはよう」
腕を引っ張って起こされる。
憂鬱な朝はいつも、侑生が優しく起こして美味しいご飯を準備してくれているので、もう彼のいない朝は考えられない。
同棲十年目。
社会人になった俺は誰もが知る大企業に入社したが、そこはなかなかブラックで、宛てがわれた上司はパワハラ常習犯。おかげで俺のメンタルも少しづつ削られている。
「侑生、フレンチトースト美味しい。天才」
「ん、ふふ、でしょ。洸ちゃんが好きって言ってたから練習したんだよ。」
「ありがとう。大好き」
「俺も洸ちゃんが一番好き」
こんなホワホワした朝を送っているが、侑生は紛れもなく極道なのでこの後危険な仕事に向かう。
そして俺はパワハラ上司のいる会社へ。考えるだけで胸が苦しい。
「洸ちゃん。今日も顔色悪いよ。会社、辛いなら休んだ方がいいと思う。」
「いや、大丈夫。ちょっと……上司が苦手なだけ。」
「……何かあったら教えてね」
「うん。」
そしてご飯を食べ終え、支度を済ませると侑生に「行ってらっしゃい」と言われ、家を出た。
思い足取りで会社に向かう。
行けばまず、きっと、デスクの上には大量の資料がある。
そう予想して会社に着くと案の定、俺のデスクに大量の資料があった。
それも、綺麗に置いてくれているならまだしも、バラバラのぐちゃぐちゃ。思い遣りという言葉を知らないのかもしれない。
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