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第2話
今日も今日とて、酷い会社だと思う。
パワハラ上司は人に仕事を押し付けて、さもそれが自分の仕事なんだと言うように俺にちょっかいを掛けてくる。
殴られるのは日常茶飯事。今日も書類を作成して提出したあと、一箇所誤字していたのを見つけて慌てて訂正したところ、鳩尾を殴られる始末。
何の構えもしていないのに突如急所を殴られると呼吸が一瞬できなくなって、床に座り込めば上司はどこかに消えた。
え、何これ。
俺そんな、殴られるようなことしたっけ?
誤字したら殴られるの?どんな地獄だよ。
ここ何年か、ずっとずっと溜まっていたモノが爆発しそうだ。
なかなか立ち上がる気になれず、頭の中を『退職』の二文字で埋め尽くした。
よし。帰ったら侑生に話そう。
仕事を辞めること。でもすぐに新しい職を見つけて働くようにすること。
きっと侑生なら分かってくれる。
そう思いながら「よいしょ」と立ち上がり、自分の席に戻ってバッグを引っ掴んだ。
あと三分で定時。今日は残業なんてしてやらない。俺はもう辞めるんだ。
時間になって誰よりも先に立ち上がる。
何やら上司から言葉が飛んでくるが気にせずに家に向かった。
■■■
「ただいまぁ」
言いながら、廊下に伏した俺は靴を脱ぐことも無く目を閉じる。
そこにゆったりとした歩調でやって来た愛しの恋人は俺の背中を優しく撫でた。
「おかえり。靴脱がない?」
「……そんな元気もない」
「じゃあ俺が脱がしちゃうね」
侑生は靴を脱がせてくれて、それが終わるとそっと上体を抱き起こされた。
「今日も嫌なことされた?」
「……俺にはもう侑生しかいない」
「え……。ん、ふふ、そうなの?俺しかいないの?じゃあ沢山甘やかしてあげないとね」
一緒に立とう、と言う侑生に支えられながら立ち上がり、洗面所で手を洗ってリビングに行く。
ソファーに座ろうとして、侑生が「ご飯食べてからね」と言うので、テーブルの席に着いた。
「今日はハンバーグだよ。洸ちゃん、好きでしょ?」
「俺が好きなのは侑生だけ……」
「俺も洸ちゃんのこと好きだよ。でもハンバーグも食べてね。俺が作ったハンバーグ嫌い?」
「大好き」
「よかった」
並べられた料理に感動していると、箸を持たされた。子供扱いされているのはわかっているが、これが心地好いので何も問題ない。
「いただきます」
「召し上がれ」
向かい合って座る彼が、肘をついてそこに顎を乗せ、俺を見ながら微笑んでいる。
ハンバーグを一口サイズに切って口に入れると、あまりの美味しさに、比喩ではなく本当に涙が溢れた。
侑生が驚いているけれど、辞めることを伝えるタイミングは今じゃないか。
「え、洸ちゃん……?」
「……俺、仕事、辞める。」
パワハラに耐えてもう六年目。
つまり、新入社員の頃からずっと。
世間がパワハラを取り上げてくれるようになったおかげで、最近は少しマシになったかなと思いきや、今日、また殴られたのだ。
心が折れても仕方がない。
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