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第3話

一時期、ストレス性の難聴になったり、胃が荒れに荒れたこともあった。それでも仕事が好きで我慢したけれど今日、我慢はボロボロと決壊した。 「今の仕事、好きだけど、パワハラ上司に耐えられそうにない。」 「うん。洸ちゃんが毎日辛そうにしてるの、俺も見てられないよ。仕事辞めて、少し休もうよ。」 「……すぐに新しい仕事探すよ。侑生に負担を掛けたくない」 箸を置いて涙を拭うけれど、止まらなくて困った。 「俺は負担じゃないよ。お金の事なら心配要らないし、大丈夫。洸ちゃんは暫く休む時間が必要だよ。」 侑生の手が伸びてきて、俺の頬に触れる。 目元を優しく指先で拭われた。 温かい手に縋るように頬擦りをする。 「侑生、好き。」 「うん。俺も洸ちゃんが好き」 「明日、退職願出してくる。」 「ついて行こうか?」 「ううん。大丈夫」 箸を持ち直して、美味しいご飯を食べる。 侑生は俺が食べ終わるまでそこにいて、完食すると嬉しそうに笑っていた。 「お風呂入っておいでよ。入浴剤入れる?確かいっぱい貰い物があるよ」 「……侑生と一緒に入りたい」 「じゃあちょっと待っててくれる?これだけ片付けるから」 「うん」 立つことなく、ぼんやりと座ったまま待っていると、いつの間にか隣にいた侑生が俺の肩をトントンと叩く。 「お風呂行こっか。立てる?」 「うん」 侑生の腕が立ち上がった俺の腰に回される。 一緒に風呂場に行って服を脱ぎ洗濯機に入れた。 棚から入浴剤を取りだした侑生が、それを湯船に投入する。 途端にラベンダーの香りがして、お湯は白く濁った。 いつの間にか湯船に対して潔癖気味になった自分のせいで、俺だけでなく一緒に暮らす侑生も湯船に浸かる前に必ず全身を洗うようになった。 今日もそうして先に全身を洗った侑生に申し訳なくて謝ると、侑生は笑って「何が?」と言うので、俺はやっぱり彼に甘えてしまう。 二人で湯船に浸かり、俺の背もたれになってくれる侑生にもたれかかって目を閉じる。 肌がピタリと触れ合っているのが気持ちいい。 お腹に腕が回されて、首筋に唇が落とされた。 「洸ちゃん、寝ちゃダメだよ。」 「寝ないよ」 「この前、そう言って寝ちゃったんだから。」 「覚えてない」 顔を少しだけ侑生の方に向けると、彼はすぐさま俺の唇を自らのそれで塞ぐ。 「舌出して」 「ん」 「もっと。べーってして」 舌を出すと、侑生の舌先が俺のそれを撫でて、絡め取られる。 ハフハフ呼吸しながら、まるで舌でセックスしてるみたいに濃厚に繋がって、どちらとも無い唾液を飲み込んだ。 腰がジン、と甘く痺れる。 「洸ちゃん、もしかして今日ここ、殴られた?」 「ん……ちょっと痣になってるな」 ちょうど、鳩尾部分。 軽く触られただけで痛みを思い出して、ぐっと体に力が入った。 「大丈夫。痛いことしない」 「……侑生」 「俺、洸ちゃんにそんなことした奴、許せない。」 「……侑生、ダメだ。」 侑李の目から光が消えていく。これは仕事中に時折見せる彼の怖い顔。 慌てて侑生の手を掴んでじっと目を合わせ、グラグラと揺れるそれを見て額同士をコツンと合わせた。 「俺との約束、覚えてない?」 「……人を殺さないこと。」 「うん。」 「もし殺しちゃったら、まずは洸ちゃんに言うこと。」 「そう。ちゃんと守って」 「わかってるよ」 ちゅ、とキスをされる。 優しい表情になった侑生に安心して脱力する。 俺には極道のことなんて分からないけれど、兎に角、俺のせいで侑生に悪いことをさせたくない。 そう思っているとムギュっとお尻を掴まれた。 「侑生?」 「洸ちゃんに見つめられて勃っちゃった。」 「見つめ……?」 「セックスしたい。ダメ……?」 中性的で綺麗な顔が、小首を傾げて聞いてくる。 好きな相手にそんなことされて、断る方がおかしいので、彼の首に腕を回し抱きしめた。

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