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第74話

side.侑生 ■■■ 「あ、切られちゃった」 洸が可愛いことを言うから嬉しくなっちゃって、思わずはしゃいでしまった。 きっと洸のことだから、そんな俺が面倒になったのと、自分の言った言葉に恥ずかしくなったんだろう。 一人ニヤニヤしてスマートフォンの画面を見る。 そんな中、ふと昨日の夜の電話の内容を思い出して、スンと表情を落とした。 そういえば、百と仲宗根、あいつらは何をしていたんだ?と沸々怒りが湧いてくる。 洸を危険な目に晒しやがって。 帰ったらそれ相応のケジメをつけさせないと。 一つ大きく息を吐いて心を安らげる。 スマートフォンで人気のスイーツを検索する。 ヒットしたそれを帰りに洸に買って帰ることにして、退院の準備をしようとベッドから降りる。 「あー、くそ、痛いな……」 足に走る痛みにイライラしながら、外に待機させている部下を呼んで片付けさせる。 その間に服を着替えようとして、まだ点滴が刺さっていることを思い出した。 もう空になるし外してもいいのではと思っていると、ちょうど看護師さんが来てそれを止められた。 「痛みはどうですか?」 「動けば少し」 「薬効いてるみたいでよかったです。じゃあ熱測りますね」 「ん。……今日帰ります」 「え、決定事項?先生にそう言われました?」 「いや、帰りたくて」 「自由ですねえ」 のほほんとしている看護師さん。 体温計の音が鳴って、画面を確認せずそれを手渡すと看護師さんは大きく頷いて「多分無理です」と言ってきた。 「熱があります。痛みも薬で抑えているだけです。先生に退院を希望されていることは伝えますが、きっと厳しいですね」 「……そこをなんとか」 「私にはどうにもできないです!」 ハッキリと笑顔でそう告げる看護師さんにはどうにも敵いそうにない。 けれど、洸には帰ると伝えてしまった。 ここは何としてでも帰らなければ、悲しませてしまうに違いない。 「先生はいつ来ますか」 「朝の回診は九時頃からなので、そのくらいだと思いますよ」 「……そっかぁ」 「はい。じゃあ横になって、ゆっくり過ごしていてくださいね。勝手に部屋を出ないこと」 「……はあい」 渋々ベッドに戻り、再びスマホを取り出した。 医者が来るまでまだ時間がある。 もう一眠りするか……と、少しずつ重たくなっていく瞼に抵抗することなく目を閉じた。

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