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ep.1
誰も自分の出生を選ぶことはできない──。
自分たちのせいではないのにΩに生まれただけでその存在を卑下され、酷く扱われ、その人生を心底恨む者もいれば、樹神 柊一 のようにαに生まれ、親の富をまるで我が物のようにひけらかしては嬉々として自由に自分の望むがままに生きる者もいる──。
そんな対極の存在であるふたつの性に番になれと神は仰るのだから、神は悪魔よりもよほど残酷である──。
Ωであるアーチボルド・アンリ・テイラーは、大学キャンパス内にある中庭で、一際派手に騒いでいるグループに碧眼の目を細めながら、殆ど軽蔑で出来た視線を送った。
人一倍オーラのあるαのリーダーを中心に、ほぼ対等らしき少数のα、その周りを取り巻きのβたちが輪を作り、リーダーたちを囲んでいる。
あんなものに時間を費やすのであれば本の一冊くらい読み終えられるのにと、アーチボルドはすぐに視線を自分の進路へと戻した。
その姿をリーダーのαは遠目ながらも見逃してはいなかったが、あえて知らないふりをして自分の仲間達と再び一際大きく笑い合った。
アーチボルドは生粋のイギリス人であり、日本にある大学校内で彼の存在が目立たないわけがなかった。
外国人は彼以外にも数名いるが、大抵はスポーツ推薦の筋肉隆々な黒人であったり長身の白人で。彼らと比べるとアーチボルドは体格的になんの目立つポイントのない、髪もプラチナブランドなどではなく少し明るめのブルネット。日本人とさほど身長も変わらない、そういった意味ではごく平均的な男子学生だった。
全くもって平均的でないのはその顔のつくりで、日本人に比べて彫りが深いのは当然としても、陶器のようにきめ細やかな白い肌、重そうな長い睫毛が大きな碧眼に影を落とし、高い鼻から顎にかけて綺麗なEラインを描いている。
そんな彼は芸能の仕事をしているわけでも何か特別な推薦を受けた訳でもなく、他の日本人学生と同じ日本語の試験を受け、一般の学生としてこの大学に入学したのだ。
この大学に決めた理由は高校時代、交換留学でお世話になった空手の師匠の家が近いのと、空手部がそこそこ強豪であったから──。本当にそれだけだった彼は一年生からすでに空手部のエースと化けた。
他の選手よりも一回り小さな彼の身体を見て、相手が彼を見くびったとしても、アーチボルドは自分を舐めて掛かる相手には容赦なく、お得意の早技で相手をあっという間に倒してみせた。
彼は何より自分を見た目や、Ωということで侮られるのを嫌ったし、そんな差別的思想を持つ人間に負けることを何よりも悪とした。
アーチボルドはΩの自衛の意味からも、周りと馴れ合うことをやや苦手としていたため、周囲から誤解を受けやすく、一部のチームメイトからは顔や色仕掛けで試合に勝っていると影で嫌味を言われていたが、それこそ彼らの負け惜しみに過ぎなかった──。
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