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 定刻通りの15:00にカフェに入ると、何やら中が騒がしかった――と思った瞬間、その目が自分たちに向いていることに気づいた。 「あ、ハルトさん、来ましたよ。水戸」 「へえ。ほんとに時間ぴったりに来るんだ。律儀だねえ」  ハルトさんは、一番奥の席に座っていた。  余裕の表情で長い脚を組み、ソファに背を預けている。  なぜか、ユーキさんはいない。  必ずふたりで行動しなきゃいけないはずなので、謎だ。 「慶介、話さない? 穏便に」 「……何が穏便なのかさっぱり分かんないけど」 「変な話じゃないから」  水戸くんは明らかに警戒していて、僕もあんなことを言われた相手だし、どうしていいか分からない。 「慶介」  氷のような声だった。  水戸くんがびくっと肩を揺らし、……なんだか様子が変だ。 「水戸くん、もう帰ろう? 「いや……ごめん、理空。もしかしたら嫌な思いさせちゃうかもだけど、ついてきて欲しい」 「分かった」  ボックス席に、向かい合わせで座る。  ハルトさんは真顔でゆっくりと、首をかしげた。 「単刀直入に言うよ。慶介、お前はBL杯で勝たない方がいい」 「…………何が言いたい。全く単刀直入じゃない」 「お前、この形でデビューしたあとの未来を、想像したか? お前のじゃないぞ。森山くんの未来だ」  水戸くんは、少しうろたえたようにして、視線を窓の外に移した。  ハルトさんは、かまわない様子で、勝手に語り始める。 「一科生が、三科生と組んで奇跡の優勝。話題性たっぷりの、華々しいデビューだ。慶介は実力もあるし、デビューさえできてしまえば、いくらでも生きられるだろう。でも、森山くんは?」  僕が、どうなるのか。  考えないようにしていていたことを言い当てられそうで、怖くなってくる。 「この可愛い感じでデビューしたとして、何の武器もなく、激しい競争に晒される。お前は役者として新しいイメージを売っていけばいいかもしれないが、この子はどうだ? BLのイメージを挽回する機会もなく、ありもしない誹謗中傷に晒されて人生を潰される未来しか見えない」  僕たちを見るその目は、猛禽(もうきん)類を思わせた。  獰猛な怪鳥が、闇夜に紛れて静かに待っている。 「慶介。ここでやめておけ。いまなら森山くんは『ちょっとゲームがうまい一般人』でいられる。それにお前なら、こんなイベントが無くても実力で――」 「詭弁だろ」  言い返した水戸くんの瞳が、揺れている。 「実力云々を言いたいなら、そっくりそのままお前に返すよ。ハルトもユーキも、こんなことしなくたってデビューできる。他人を蹴落とすのに熱心なのは分かったけど、視聴者さんに聞こえると分かった状態でこの話を出すのは、不誠実。アウト」  水戸くんが言い切っても、ハルトさんは動じない。  眉ひとつ動かさずに答える。 「もちろん、視聴者に聞こえてるのは承知の上だし、俺が1位にしがみつきたくてこう言ってると思われても仕方ないと思うよ。でも、俺の話は正論だろ。森山くんの未来をきちんと考えないお前が悪いし、森山くんのファンの子は、みんな同じ心配をするんじゃないかなって思う。あと、BL杯で戦う俺とお前の間には、ひとつ、決定的な違いがある」 「何が……」  獲物を捕らえた鷹は、うっすら笑って、こう言った。 「だって慶介は、好きなんだろ? その子のこと」

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