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第8話

「すみません!遅れました!」 「おう、惇生、ズル休みかと思ったぞ」 「講義が長引いちゃって、連絡も遅れてすみません」 ガタイのいい、多分、店長だろう、に早口で告げると、惇生はバックヤードに引っ込んだ。 その様子を見届け、大悟はメニューを広げた。 「....どれもこれも格安だな」 大悟の家は所謂、絵に描いたような金持ちだ。子供の頃すら、ファミレスに来た事はなく、何本ものフォークが並んでいる、ドレスコードのあるレストランにしか来た事は無かった。 小学校の頃に、クラスメイトが話していた、ファミレス、に興味を持ち、両親に行ってみたい、と話したが、私達には用のないところ、と一喝され、終わった。 思わず、メニューに食い入った。 「....料理もデザートも豊富なんだな」 童心に戻ったような感覚だ。 「....これを押せばいいのか?」 仕切りガラスにある押しボタンに触れると鳩時計の音にビクッとなる。 「ご注文、お決まりですか?」 満面な笑顔のウェイトレスがやってきた。 「あ、えーと...」 その頃の惇生。 ウェイター姿に着替えた惇生は早速、厨房からの料理を運ぶよう、言われた。 「12番テーブル、お前のダチだろ?細いのによく食うな」 はて、と惇生は12テーに運ぶ料理を見、驚愕で目を見開いた。 「....あいつ、ふざけてんのか?」 焼肉定食、ホッケ、焼き鳥盛り合わせ、ポテトフライ、天ぷらの盛り合わせ、唐揚げ、他、まだまだ調理中のようだ。 デザートも、ティラミス、ミルクレープ、チョコパフェ、苺パフェ。 「おっ、すげ」 テーブルに並べられる料理に大悟は瞳を輝かせた。 「...お前、俺の財布、スッカラカンにしたいわけ?」 「は?」 大口を開け、肉を頬張る姿はアホ面だ。 「ファミレスって、天国みてーだな」 もごもご、口を動かしながら大悟が言うのをこれまた唖然と見つめた。 「....ファミレス知らないの?な訳ねーよな」 言葉じりは思わず笑った。 ごくん、と勢いよく飲み込んでから。 「存在は知ってたけど、来たのは初めて。あ、ドリンクバーってなに?」 「....どんだけ、世間知らずなんだよ」 理由を知らない惇生は思わず呆れた。 食べきれなかったぶんは惇生の賄いとなった。

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