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第9話
大悟が来ていた為、店長は無駄な気遣いで惇生を、
「今日はもういいぞ、惇生。客もはけてきたし」
「えっ、でも店長、俺、今日、遅れて来ましたし」
「遅れて来たっつっても講義が長引いたせいだろう、次は明後日か、よろしくな」
「はい、お疲れ様でした」
ぺこり、勢いよく惇生は頭を下げた。
「よっ、惇生、お疲れ」
私服に着替えた惇生は大悟の隣を素通りした。
「なんだよ」
「もう用はねーだろ。あ、これ返す」
左手首に嵌めた腕時計を返そうと指を掛けたが、大悟にスルーされた。
「要らねーよ、腕時計の1本や2本。それより」
「なんだよ」
「お前が痴漢や強姦に遭わないように送ってくよ」
「は?」
「いつもここからどう帰んの」
「どうって...歩いて」
「歩き?危なっかしいな、タクシーで帰れよ」
「しょっちゅう、タクシー使ってたら金の無駄だろ」
「自分の身の心配より金の心配かよ」
風に靡く茶色い髪の横顔は真剣だった。思わず、惇生は端正なその顔に食い入った。
おちゃらけてばかりの大悟の意外な一面だったからだ。
「次はバイトいつ」
「え?あ、明後日だけど」
肩越しに振り返ると大悟はふわりと笑った。
「これから俺がお前のボディーガードしてやるよ」
ぽかん、とした惇生はすぐさま。
「細っこい奴がよく言うよ、第一、俺は男なんで!」
「お前も充分、細っこいけどな」
そうして、惇生のバイト帰りは大悟が自宅前まで送る手筈になった。
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