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第15話

「惇生!惇生!」 斜め前に座る悠介が小声で必死に呼びかけるが、片手はペン回しをし、片手で頬杖をついたまま、ひたすら、ボーッとしている惇生がいた。 「久野!」 「はい!」 講師からの怒声に我に返り、勢いよく立ち上がった。 「そんなにボーッとしたかったら中庭にでも出てろ!真剣に講義を受けている者の邪魔だ!」 「すみません!」 慌てて頭を下げ、惇生は荷物を纏めた。 聖の部屋に行ってから半月が過ぎた。 秋風に身震いしながら、校庭を抜ける。 思いがけない姿がそこにあった。 「....大悟!」 グレーのコートにブラックのデニム姿。茶色い髪が若干伸び、色香を増した、大悟がいた。 近寄ると懐かしい大悟の香り。夢じゃない。 「心配してたんだ、大悟、大丈夫だった!?」 惇生は大悟の両腕を掴んだ。 大悟の口から出た言葉に唖然となった。 「悪い、誰だったっけ...?」 必死な惇生の表情に困惑するように苦笑する大悟の姿があった。 「なにふざけてんだよ...あ!時計の件、悪いと思ってる、ちょっと八つ当たりで....ごめん」 「....時計?」 「腕時計だよ。投げつけた。弁償するしさ、機嫌直してよ」 惇生の苦笑に、大悟は真顔だった。 「ごめん。悪いけど、覚えていないんだ。もし君が俺の時計を壊した、それが事実でも気にしなくていい。それより、通してくれるかな」 「....え?」 「講義、間に合わなくなるからさ」 惇生は呆然となった。 腕を掴む力が弱まると、大悟は校舎へと歩いていった。 その後ろ姿を複雑な思いで見送った。 「....覚えて....ない....?」 呟いた言葉は秋風に消えた。

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