20 / 33

第20話

「どっかで見た事あると思ってたらそういう訳か」 「表紙にもなった事あるんだよ、九条くん」 ファッション雑誌を読むことの無かった惇生はただただ、驚き、困惑気味の大悟の横顔を眺めた。 イケメンだとは思ってはいたけど...と。 「俺の事はいいから飯食おうぜ」 「そうは言ってもまだ飯来てねーよ」 うっ、と話しを逸らそうとした大悟が言葉に詰まる。 「デートならデートらしくしろよ、悠介」 「なんだよ、お前まで」 そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。 「そうだ。惇生、左手」 「左?」 惇生が軽く左手を上げると、大悟はケースから取り出した腕時計を左手に巻いた。 「....これ、俺が投げた...」 惇生が投げ飛ばした腕時計だった。 「ヒビ、入ってたから、修理した」 「アルマーニの腕時計?なんだ、大悟のプレゼントだったのかよ」 「プレゼントって訳じゃない。時間がわからないと困るだろ」 「....カッコいい...」 美香の呟きに悠介がコホン、と咳払いをし、我に返った美香も慌てて、いただきます、と手を合わせた。 「要らないって言ったのに...恥ずかしい」 「恥ずかしい?指輪、プレゼントした訳じゃあるまいし」 帰りの車中、惇生は単に照れただけだ。 本当は嬉しかったのだが、素直になれない性分からウィンドウ越しの景色を見、嫌づらした。 「要らないなら、俺が見てないところで捨てろ」 「...本気で言ってんの?」 「ああ。必要ないなら好きにすればいい。俺の見えない、気づかないところでな」 明るいかと思えば明るくない、ふざけてるのか本気なのかわからない。 自分も掴み所がないとは言われるが、大悟もそうだと、ウィンドウに肘を置き、惇生は運転する大悟の横顔を見つめた。

ともだちにシェアしよう!